口腔から肛門までの臓器を診る消化器科内科は、全診療科の中でも幅広いスキルや迅速な対応が求められます。
消化器疾患を抱える患者は多く、平成29年の厚生労働省の調査では、外来患者719万人のうち約20%が消化器系の疾患を抱える患者ということが分かっています。患者は、病院だけでなく、クリニックや訪問看護ステーションなどの施設も利用することから、消化器内科の看護師はさまざまな場所で活躍しています。
今回は、消化器内科看護師に焦点を当て、仕事内容ややりがい、おすすめの資格を解説していきます。
参考:厚生労働省「平成29年患者調査」
消化器内科看護師の仕事内容とは?
消化器内科は短期間の治療を目的とした患者と、長期的な治療や緩和ケアが必要な患者が混在しています。
ここでは、消化器内科看護師の業務内容をご紹介します。
継続的な自己管理をサポート
慢性的な対応が必要な患者は、内服管理や自己注射などの自己管理を行う必要があります。多くの場合、入院中に看護師からレクチャーを受け、その方法を習得します。
看護師は、患者が在宅でも継続的に自己管理を行えるよう、看護アセスメントのもと、サポートしなければなりません。例えばパンフレットを用いながらの説明、患者の生活リズムに合わせた内服時間の設定、必要であれば家族への説明・指導などを行います。
患者の理解度や生活環境を把握し、勝手に中断することのないよう実践的なアプローチが求められます。
カテーテルや点滴ライン管理
消化器内科では、炎症や出血を改善する目的で絶食となる期間があり、期間中は静脈点滴や経管栄養での栄養補給を行います。また、がん患者は痛みのコントロールや栄養管理のため、CVカテーテルを使用している場合も多いです。
点滴ラインは、絶食患者にとっての生命線であり、栄養状態に直接影響するため、細やかな管理が求められます。
さらに栄養だけではなく、排液のためのカテーテルを挿入している患者も少なくありません。認知機能低下により、状況の把握が難しい患者は、カテーテルを抜いてしまうリスクがあるため、注意が必要です。
栄養状態の把握や管理
消化器疾患の患者のうち、特にがん患者は全身の炎症や、化学療法の副作用など、さまざまな要因から栄養不良に陥りやすいと言われています。
栄養管理が十分に行われていないと、免疫力が低下して、創傷治癒の遅延やウイルスへの感染リスクが高まるといった弊害が起こります。症状や食事摂取状況、検査データから総合的に判断し、自発的に栄養士や院内のNSTチームへの栄養管理依頼を行っていきましょう。
患者の一番身近な医療従事者として、栄養チームに栄養必要量の決定の相談をしたり、栄養士に患者の好みを考慮した提案を行ったりするなど、常に栄養管理へ関心を持っておくことも消化器内科看護師の大切な役割であると言えます。
消化器内科看護師のやりがい4選
消化器内科は対応する疾患が幅広く、慢性疾患を合併している患者がほとんどです。多くの疾患の知識やケアに対する技術が必要となり、とてもやりがいのある診療科の一つです。
ここでは、消化器内科看護師のやりがいを4つご紹介します。
アセスメント力が身につく
消化器内科の患者の症状は多岐に渡ります。症状が出現した時には、看護師のケアや内服で消失する症状なのか、緊急性のある症状で医師への報告が必要なのかを見極める必要があります。
もちろん医師や先輩への報連相は必要ですが、医師や先輩の判断やその時自分がどう考えたのかを後から整理して、次回の看護に活かすことが重要です。
日々の看護では疾患の理解はもちろん、全身状態・症状・検査データからの判断を繰り返していくため、分析力と経験が身につきます。
幅広いスキルを習得できる
消化器内科では、栄養管理、終末期医療などの豊富な知識と、それに対応するためのさまざまなスキルが身につきます。
【消化器内科で身につくスキル例】
- 栄養管理
- ライン管理
- 緩和ケア
- 内視鏡介助
- 抗がん剤使用時の管理
消化器内科疾患は、全身状態の観察が必須のため、他の診療科でも役立つスキルが得られますよ。
コミュニケーション力、指導力の向上
消化器内科では、糖尿病や高血圧の患者や、肝臓疾患のある患者に生活習慣病対策の指導や説明を行います。そのため食事バランスや運動方法、禁煙治療、アルコール依存症などの知識も必要です。
ただ指導や説明をするだけではなく、どうしたら行動変容を促せるのかを考えなければなりません。患者の考えを受け入れつつ、日常の生活習慣をどのように変えていけるのかを、寄り添いながら考える力が必須となります。
会話を通して、患者の行動変容を間近で見ることができるため、やりがいを感じられます。
患者さんの回復・感謝の声
消化器内科には長期で入院する患者さんが多いです。そんな患者の症状が回復し、退院できる時はとても喜びを感じられます。
また「ありがとう」「あなたに見てもらえて良かった」といった感謝の言葉を、患者やその家族から言ってもらえる機会も多いです。そのような言葉を貰えると「大変なことも多いけど看護師をしていて良かった」とやりがいを感じられます。
消化器内科に向いている看護師とは?
消化器内科では、患者の疾患理解から精神的なサポートまでさまざまなスキルが必要となります。
ここでは、消化器内科に向いている看護師の特徴について解説します。
コミュニケーションが得意な看護師
患者とのコミュニケーションが得意な看護師は、患者からの信頼も厚く、患者が抱えている課題をふとした会話の中から把握しやすいです。
患者の中には、「これくらいなら大丈夫か」と考えて、症状が悪化するまで看護師への報告を控えてしまう方もいます。自分の受け持ち患者じゃない場合も、「今日はどうですか?」「昨日の夜は眠れました?」などと聞くだけでも、思わぬ課題や患者の思いが把握できますよ。
観察力をもった看護師
観察力は看護の中でも重要なスキルのうちの一つですよね。患者の変化を見つけるのが得意な方は消化器内科の看護師に向いています。
アセスメントを行う上では体の変化だけではなく、表情や行動も気を付けてみていかなければなりません。平常時を知らなければ状態変化を発見するのは難しいため、日ごろから患者の状態を観察しておくことが重要と言えます。
状態を冷静に分析して行動できる看護師
消化器疾患には、症状が似ているものが多いです。同じ腹痛の症状でも、患者の状態や基礎疾患、薬剤の副作用などで対応は全く異なります。
消化器内科の看護師は、症状や全身状態を見ながら、原因となる疾患や今後起こりうる事態を想定しながら行動する必要があります。医師への報告が遅れてしまうと、症状が長引いたり、悪化したりする可能性が高くなります。
どんな疾患からの症状か、想定しながら対応できる看護師は消化器内科に向いていると言えます。
消化器内科でやりがいを感じられなくなった時の対処法
多くのスキルが求められる消化器内科では、日々の重圧から、やりがいを感じられなくなってしまう看護師も少なくありません。
「自分のやりたいことがわからない...」と感じたら、下記の3点を実践してみましょう。やりがいを取り戻すヒントが隠れているかもしれませんよ。
自分の看護観を見つめ直す
業務に追われていると、新人の頃の目標や看護師になった目的を忘れてしまいがちです。やりがいが分からなくなった時は、原点に立ち返ってみましょう。どんな看護師になりたいと思っていたか、看護師として何をしたかったかを深掘りしてみると、現在とのギャップが分かってきます。
また、過去の自分を思い浮かべてみると、技術も知識も立ち振る舞いも、すべて大きく成長していると感じられるでしょう。成長が見えることは、モチベーションの向上に繋がります。
身近な人に相談してみる
今抱えている悩みや漠然とした不安を、身近な人に相談してみましょう。
客観的な意見を聞き、思考を整理すると、新たな気付きがあるかもしれません。相談する相手も看護師であれば、あなたの気持ちを理解してくれつつ、状況や考え方も把握できるため、相談相手にはもってこいです。
気軽に相談するだけでも、世界が広がるかもしれませんよ。
他の科への異動・転職をする
やりがいを感じられない原因が今の環境だと考えたなら、思い切って異動や転職をするのも選択肢の一つです。職場によっては、人間関係の悪さや看護業務以外の仕事の多さなど、自分の業務に集中できないこともありますよね。
やりたいことがあるのにできないと、ストレスが溜まり、その結果「何のために働いているのか」とやりがいを感じられなくなってしまうでしょう。
環境を変えて、やりがいを取り戻せた看護師も多いので、転職や異動を検討してみるのも良いでしょう。
消化器内科の看護師におすすめの資格は?
消化器内科での業務の中で、「栄養についてわからないことが多い」「内視鏡をもっと勉強してみたい」など、スキルアップを目指したいと感じることはありませんか?
スキルアップすると、患者へより良い看護を提供できるようになり、やりがいや面白さを感じられますよ。ここでは、消化器内科の看護師におすすめの資格を紹介します。
消化器内視鏡技師
内視鏡検査は、苦痛を伴う場合もあり、患者への精神的サポートが必要です。検査がスムーズに終わるように介助を行えば、検査時の苦痛を軽減できます。内視鏡検査の豊富な知識のある看護師が対応すれば、患者も安心して検査を受けられますよね。
消化器内視鏡技師は、上部・下部内視鏡検査に関わる前処置、内視鏡の洗浄、消毒や管理、検査や治療時の介助などを行います。
消化器内視鏡技師の資格を取得するには、日本消化器内視鏡技師会が定めた受験資格をすべて満たし、認定試験に合格する必要があります。
内視鏡室での業務を学べるため、今後のスキルアップ、キャリアアップにも繋がりやすいです。
参考:一般社団法人日本消化器内視鏡技師会「技師制度・認定制度」
栄養サポートチーム専門療法士(NST専門療法士)
消化器内科は栄養コントロールが難しく、栄養管理が必要です。
栄養サポートチーム専門療法士は、栄養管理のスペシャリストです。医師、歯科医師、栄養士、薬剤師、看護師からなる栄養サポートチーム(NST)の一員として活躍します。栄養サポートチーム専門療法士には、以下のような役割があります。
【栄養サポートチーム専門療法士の役割】
- 栄養状態の把握
- 栄養管理計画の立案
- 嚥下状態の検討
- 個人に合わせた食事への検討(硬さ・量・補食など)
- 栄養管理方法の提案
栄養サポートチーム専門療法士になるためには、日本臨床栄養代謝学会が定めた受験資格を満たし、認定試験に合格する必要があります。今後は高齢化が急速に進むことから、栄養管理の知識や技術はますます求められるでしょう。
参考:日本臨床栄養代謝学会「資格制度」
日本口腔ケア学会認定資格
消化器内科の患者は絶食が必要なケースが多く、口腔内のトラブルが起こりやすくなります。また、化学療法や放射線療法の影響で免疫力が低下すると、口腔カンジダや粘膜症などの口腔内疾患の合併が見られるため、口腔内のケアもしっかり行っていく必要があります。
日本口腔ケア学会認定資格保持者は、口腔内の乾燥や汚染など口腔環境を確認し、適切なケアを指導しながら、病棟看護師とともに口腔状況の改善を目指します。
日本口腔ケア学会認定資格を取得するには、日本口腔ケア学会が定めた受験資格を有し、書類審査・認定試験に合格する必要があります。
口腔トラブルの原因のひとつである歯周病は、さまざまな生活習慣病を引き起こすリスクがあるとされており、口腔ケアの大切さや質の高いケアの普及は今後必要となりそうです。
参考:一般社団法人日本口腔ケア学会 「認定資格制度について」
日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士
消化器内科の患者は絶食状態が長く続くと、口腔内のトラブルだけでなく、嚥下機能が低下し、食事中にむせてしまうことが多くなります。
嚥下機能の低下は肺炎や低栄養のリスクとなるため、嚥下訓練が不可欠です。一般的に言語療法士が嚥下リハビリを行いますが、看護師も日常的に行えば、患者の嚥下機能の回復が早まります。
日本摂食嚥下リハビリテーション認定士は、摂食嚥下リハビリテーションの基礎知識や技術を習得し、摂食嚥下リハビリテーション計画書の作成や、計画書に基づいた摂食嚥下訓練の実施を行います。
資格を取得するためには、日本嚥下リハビリテーション学会が定めた受験資格を有し、書類を提出後、認定試験に合格する必要があります。
高齢化が進む現代では、高齢者の嚥下機能低下による誤嚥性肺炎が問題視されています。摂食嚥下リハビリテーションは、消化器内科だけでなく、すべての医療従事者に必要なスキルと言えるでしょう。
参考:一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会「認定士制度」
まとめ
消化器内科は治療対象の臓器が多く、看護師に求められる知識やスキルも多岐に渡ります。膨大な知識が必要であり、責任の重さからやりがいを感じられなくなることもありますよね。
しかし、消化器内科での知識や経験は、今後の看護業務やキャリア形成に大いに役立ちます。アセスメント力やコミュニケーション能力のある消化器内科看護師は、患者にとって心強い存在です。
バイトルPROでは、消化器内科の求人も豊富に取り揃えています。消化器内科業務に携わりたい方はぜひ参考にしてみてくださいね。
ライター 近藤涼子
総合病院から転職し、内科系クリニックに勤務。看護師として働きながらメディカルライターとしても活動。難病、神経内科、地域包括ケアなど数々の診療科での経験を持つ。
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