「雰囲気が怖い」「仕事内容が過酷そう」など、ネガティブなイメージを持たれることが多い精神科。しかし、患者さん一人ひとりと向き合いたい、精神面のケアを学びたいと志望する看護師も実は多いと知っていましたか?
今回はそんな精神科看護師の「あるある」をご紹介します。すでに精神科で働いている方も、これから働いてみたいと考えている方も、楽しみながら読んでみてくださいね。
精神科で働く看護師の役割・仕事内容とは?
精神科の看護師は、精神疾患のある患者さんの看護が仕事です。精神科病棟はもちろん、訪問看護ステーションや外来・クリニック、デイケアなどでも活躍しています。
精神科で対応している代表的な疾患として、以下のようなものが挙げられます。
- うつ病
- 統合失調症
- 双極性障害
- 強迫性障害
- 発達障害
- 摂食障害
- 依存症(アルコール、薬物、ギャンブルなど)
- パーソナリティ障害
- 認知症
- パニック障害
規模の大きな精神科病院では、罪を犯した方が精神鑑定のために入院してくるケースもあります。
主な業務内容は、医師の診療補助や服薬管理、傷などの処置、入浴など日常生活の援助です。洗濯や金銭管理など、生活能力を身につけるためのサポートも行います。
簡単なように感じられるかもしれませんが、精神科の患者さんにとっては困難なことが少なくありません。病気や障害と向き合い治療をしながら、社会への適応方法を一緒に模索するのも、精神科看護師の重要な仕事です。
ちなみに「精神科」は精神疾患を対象としていますが、「心療内科」はストレスなどの心理的要因で発症した体の不調(心身症)が対象です。しかし現状では、精神科と心療内科の両方を標榜・診療していたり、心療内科で精神疾患を診療していたりもします。
精神科看護師あるある【診療科の特徴編】
精神疾患を対象とする精神科には、他の診療科には見られない特徴があります。精神科だからこその「あるある」をご紹介しましょう。
治療のゴールは「完治」ではない
精神疾患を発症するタイミングはそれぞれですが、共通しているのは完治が難しく、うまく付き合っていく必要があるという点です。
そのため、治そうと考えるのではなく、患者さんそれぞれの状況に合った目標を立てて治療が行われます。目標の具体例としては、「復職できる」「作業所などへの通所ができる」「退院後も落ち着いて生活できる」などが挙げられます。
参考:独立行政法人 福祉医療機構「共同作業所(小規模作業所)」
精神科以外の診療科は「一般科」と呼ぶ
精神科とそれ以外の診療科を分けて話すとき、精神科以外の診療科を「一般科」、あるいは身体疾患をみるという意味で「身体科」などと呼ぶ場合があります。
見た目や数値に表れにくい精神科は、他の診療科と異なるという意識から、このような呼び方になっているのかもしれません。
他の診療科では使わない薬が多い
初めて精神科で働く方が戸惑うのが、薬の多さです。
他の診療科でも、うつ病や認知症など精神疾患の薬を見る機会はありますが、やはり専門の診療科。他では見る機会が少ない薬も多く使われています。
薬品名や作用の把握が、精神科看護師としての第一歩といっても良いかもしれません。
感染症対応に弱い
身体疾患に対応する機会が少ない精神科は、感染症対応に弱い側面があります。看護師をはじめとしたスタッフは防護服などの取り扱いに慣れておらず、物資も少ないからです。
患者さんの中には、感染症予防に必要な対応を理解して、実行するのが難しい方も多くいます。いかに感染源を持ち込まない、広げないようにするかが、看護師をはじめ医療スタッフにとって重要です。
入院形態に決まりがある
入院といえば、本人や家族が入院の必要性に関して説明を受け、納得して入院するという流れが一般的です。
しかし精神科では、本人に病気だという意識がなかったり、病状の悪化によって周囲に迷惑をかけてしまったりする場合があります。そのため、精神保健福祉法によって以下のように入院形態が定められているのです。
- 任意入院...患者本人に入院する意思がある場合
- 医療保護入院...入院の必要があり、家族などが患者の代わりに入院に同意する場合
- 応急入院...入院の必要があるが、家族などの同意が得られない場合 ※72時間以内に限る
- 措置入院...自傷他害のおそれがあると判断された場合 ※都道府県知事の権限によって入院となる
任意入院以外は、精神保健指定医の診察が必要で、措置入院には"2名以上の精神保健指定医の診断結果が一致した場合"という条件があります。精神科看護師の仕事には、どの入院形態なのかを確認し、適切な対応をするスキルも求められます。
参考:厚生労働省 みんなのメンタルヘルス「精神科の入院制度について」
男性看護師が多い
他の診療科と比べて男性看護師が多いのも、精神科の特徴です。近年は全体的に見ても男性看護師が増えつつありますが、「精神科病棟では半数が男性看護師」というケースも珍しくありません。
精神科の患者さんは、精神状態や病状が悪化すると暴力的になってしまうことがあり、制止が必要な場面で頼りになるのが男性看護師です。
精神疾患は他人事ではないと気付く
精神科で働き始めると、カルテに記載されている患者さんの病歴を目にします。そこに書いてある発症当時の状況を見ると、人間関係や出産後の不調、仕事のプレッシャーなど、誰にでも起こり得る出来事がきっかけとなっている患者さんが少なくありません。
精神疾患は自分には関係ないと感じていた方でも、さまざまな患者さんの病歴を見るうちに、「もしかしたら自分やまわりの人が発症してもおかしくないのかも...」と身近に感じるようになるでしょう。
精神科看護師あるある【業務編】
精神科看護師は、業務内容も他の診療科と少し異なります。業務に関する「あるある」をご紹介しましょう。
医療行為が少ない
身体疾患をみる機会が少ない精神科は、医療行為の少なさが特徴です。慢性期病棟であれば、定期的に採血を行ったり、抗精神病薬を注射で投与したりするくらいです。
急性期病棟や身体疾患を合併した患者さんをみる病棟であれば、医療行為を行う機会は増えますが、それでも他の診療科よりは少ないでしょう。
医療行為が少ない分、看護においては患者さんとのコミュニケーションが重視されます。患者さんが抱える本音や希望などを上手に引き出し、回復へつなげていくことが看護師の役割です。
残業が少なく定時で帰れる
精神科は急変が少なく、残業が発生しにくいのも特徴です。もちろん急な入院や、状態が悪い患者さんの対応などで定時に終われないときもありますが、頻繁には起こりません。
そのため、育児中の方や定年後採用で働く方も多く活躍しています。ワークライフバランスが取りやすいのは、精神科看護師の良いところです。
他診療科と比較して夜勤が楽
精神科での夜勤は、服薬対応と患者さんが寝ている間の観察、夕方と朝の食事対応が中心になります。医療機器を管理する機会はほとんどありません。
休憩もしっかりと取れる病棟が多いので、他の診療科での夜勤と比べて負担は少ないでしょう。
ただし入院直後や身体疾患を合併した場合など、病状が不安定な方がいれば忙しくなる日もあります。
戸締りに敏感になる
精神科病棟といえば、鍵をイメージする方も多いかもしれません。精神科の閉鎖病棟では、病棟の出入口や隔離室などに鍵が設けられており、職員にも一本ずつ鍵が渡されます。
閉鎖病棟には症状が重い患者さんが入院しており、鍵は安全を確保するためのものです。かけ忘れると重大な事故につながりかねないため、精神科看護師は鍵に非常に敏感になるのです。
「危険物」チェックに厳しくなる
精神科に入院するときや、外出泊から帰ってきたときに必ず行われるのが、患者さんの荷物チェックです。精神科の患者さんは自傷他害のリスクが高いため、危険なものは病棟で預かります。
刃物のように明らかに危険なもの以外にも、パーカーのような紐がついた衣類や、携帯電話の充電コードなど、細かなところまでチェックが必要です。トラブルや症状悪化防止のため、携帯電話そのものを預かる場合もあります。
頼れるベテラン看護師の存在
精神科看護師にとって、患者さんとのコミュニケーションと信頼関係が重要です。入職したばかりの看護師は警戒して、話をしてくれない...という患者さんも。
そこで頼れるのが、ベテラン看護師です。気難しい患者さんでも、その方であれば心を許して話をしてくれるときがあるのです。長年勤めていれば、患者さんの特徴や行動パターンなども十分に把握しているため、対処も的確です。
精神科看護師あるある【患者さん編】
精神科の患者さんにも、共通する「あるある」が存在します。これには病気の特性が関わっている場合もあるため、知っておくと業務に役立つかもしれません。
長期入院中の患者さんが多い
精神科には、10年単位で入院している患者さんが多くいます。病院やスタッフに関する事情に詳しい方も多く、入職したばかりの看護師は、患者さんから情報を知る機会があるかもしれません。
近年は入院期間を短くし、できるだけ地域で暮らせるように支援していくという流れになっていますが、長期入院している患者さんは、さまざまな課題から退院が難しいのが現状です。
職員と顔なじみになる
長期入院の方はもちろん、精神科の患者さんは、症状の悪化や家族の都合で何度も入退院をしている方も多いです。退院後も同じ病院の外来やデイケアに通っていて、それぞれの職員と顔なじみになっています。
精神科の患者さんを支えることは、日常生活をサポートすることでもあります。顔なじみの関係になれるのは、それだけ信頼関係が築けているという証なのかもしれません。
作業療法中に特技が発揮される
精神科では、日常生活に必要な能力の獲得や気分転換などを目的に、作業療法が行われています。看護師も作業のサポートなどを行いますが、普段の入院生活では見られない特技を発揮する患者さんがいます。
器用に編み物をこなしたり、とても上手に歌ったり絵を描いたりと、作業療法の時間には患者さんの個性が垣間見えます。そこでの発見が、新たなアプローチにつながるケースもあるでしょう。
薬の時間に並び始める
精神科での治療の中心は薬の内服です。患者さんにとっても、薬が自身の症状を落ち着かせるものという認識があり、毎日のルーティンとして行動に刻まれています。
そのため、時間ぴったりになると服薬しようとする方が多いです。時間になるとナースステーションに患者さんの列が生じることも。そのくらい、患者さんにとって薬は重要な存在なのです。
季節や天候に症状が影響される
季節の変わり目や天気が悪い日などに、「気分が落ち込む」「調子が悪い」と感じた経験はありませんか?最近は「気象病」「天気病」などと言われますが、精神科の患者さんも、季節や天候によって症状が悪くなるときがあります。
落ち着きがなくなったり、言葉や態度が攻撃的になったりして、ときには病棟内が荒れてしまうことも。季節や天候による影響など、環境の変化に敏感なのかもしれません。
暴力や暴言がみられることも
精神科の患者さんは病状が悪化すると、暴力に走ったり暴言を吐いたりすることがあります。それによって看護師が精神的に傷ついたり、ケガをしたりする可能性もあります。
そのため精神科では、包括的暴力防止プログラム(Comprehensive Violence Prevention&Protection Programme:CVPPP)を活用しているところが多いです。これは患者さんの安全と尊厳を守りながら暴力に対処するためのプログラムで、患者さんはもちろん、スタッフの安全を守り、互いにけがを負うリスクが少なくなるとされています。
参考:独立行政法人国立病院機構 肥前精神医療センター「2021年度 包括的暴力防止プログラム(CVPPP)トレーナーコース研修募集要項」
精神科看護師あるある【これって本当?】
精神科看護師に関して、さまざまなうわさが聞かれます。それは本当なのか、疑問に思った方もいるかもしれません。ここからは、うわさでよく聞く「精神科あるある」について解説します。
精神科看護師は性格が悪い?
精神科看護師は性格が悪いといわれることがありますが、必ずしもそうではありません。いろいろな性格の看護師がいるように、精神科も穏やかな方や優しい方、厳しい方など性格は多様です。
しかし精神科看護師は、暴力や暴言に対応する必要があり、患者を社会生活に適応できるよう導く役割を持ちます。そのため場合によっては、毅然とした態度、厳しい態度を取らなくてはなりません。
精神科看護師の性格が悪いと思われてしまう理由は、こうした点にあるのではないかと考えられます。
精神科で働くと病む?
「精神科看護師は病みやすい」といわれますが、他の診療科と比べてその頻度が多いかどうかは分かりません。
しかし精神科では、精神疾患のある患者さんのネガティブな発言や態度に触れる機会が多いのは事実です。また病気の特性から患者さんとコミュニケーションが取りづらく、暴力や暴言を受ける場合もあります。
その点では、精神科看護師は精神的なダメージを受けたり、思い詰めたりしやすいのかもしれません。
精神科の経験は評価されない?
精神科は他の診療科と区別され、転職時に経験が評価されないことがあります。医療行為をする機会や身体疾患をみる機会が少ないため、即戦力にはなりにくいからです。
しかし、経験が評価されないからといって、看護師としての能力が低いという訳ではありません。医療行為は経験すれば身に付きますし、身体疾患の看護経験は浅くても、アセスメントをする能力そのものは磨かれているはずです。
他の診療科へ移ったとしても、精神科の患者さんと真摯に向き合い培った能力は、しっかりと発揮されるでしょう。
精神科は向き不向きがはっきりしている?
精神科は診療科としての特徴がはっきりとしているため、向き不向きは判断しやすいといえるかもしれません。
1日あたりの業務内容が少なく、ゆったりとした働き方ができるのが魅力です。ワークライフバランスを大切にしたいという方に適しているでしょう。患者さんとのコミュニケーションが重視されるため、一人ひとりと向き合いたいという方にも向いています。
しかし暴力・暴言が苦手で気にしやすい方や、急性期病院のように最前線で働きたいという方には、あまり向いていないかもしれません。
まとめ
精神科が対象とする精神疾患は特殊なものではなく、誰にでも起こりうる疾患です。患者さんの精神面と向き合うという点では、他の診療科にも通じる部分があります。
医療行為をする機会は少ないですが、患者さん一人ひとりと向き合い、看護の質を高めるという点では、精神科の経験は看護師としての強みになるでしょう。
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ライター 小松亜矢子
地域看護に関心のあるライター。看護師の資格を持ち、地域でコミュニティナースとして活動中。
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