介護士は医療従事者ではないため、医療行為は禁止されています。しかし実際の介護現場では医療行為のような対応が求められる場面もあります。そこで2000年代に入ってから、介護士による医療行為が段階的に部分解禁となりました。
この記事では、介護士ができる医療行為・できない医療行為について詳しく紹介します。
介護士ができる医療行為
施設や訪問先でケアを提供する介護職員は、医療従事者ではありません。そのため基本的に医療行為は認められていませんが、場合によっては利用者やそのご家族から医療行為を求められることがあります。
ではどんな行為なら介護士が行えるのでしょうか。ここでは介護士ができる医療行為について詳しく紹介します。
医療行為に該当しないとされているもの
介護士ができるケアの中で医療行為に該当しないとされているものには、以下のものがあります。
これらの行為はかつて医療行為とされていましたが、2005年に厚生労働省が示した「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」によって「医療的ケア」とされ、介護士も行えるようになりました。
それまでグレーとされていた介護士による医療行為の基準が明確に線引きされたのです。
医師法や保助看法において規制対象外の行為
先ほど説明したもの以外に現在でも医師法・歯科医師法・保助看法において医療行為とみなされてはいるものの、一部規制の対象外になっている医療行為があります。
- 耳垢の除去
- 爪切りや爪やすり
- 歯ブラシや綿棒を使用した口腔ケア
- ストーマのパウチに溜まった排泄物の廃棄
- 自己導尿の補助やカテーテル交換時の準備・体位補助
- 市販されている浣腸器を用いた浣腸
これらの医療行為は、要介護者に異常がなく専門的な管理が必要でない場合にのみ介護士でも提供できます。
利用者の状況によっては医療行為とみなされることもあるため、介護提供事業所は必要時、サービス担当者会議などで医師や看護師に対して利用者の状態を伝えた上で、専門的なケアが必要かどうかの指示をあおいでください。
いずれの行為もケアを提供する前に、利用者本人やご家族の同意を得ておくと安心です。
研修を受けることでできるようになる医療行為
2011年に発令された「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」により、2012年4月からは一定の条件をクリアした介護士ができる医療行為が増えました。
対象となる行為
対象となる医療行為は、以下の2つです。それぞれどのような行為なのか、詳しく見ていきましょう。
喀痰吸引
喀痰吸引は、吸引機を使用して痰や唾液を体外に排出させる行為です。
喀痰が喉や口の中に溜まってしまうと痰を飲み込み、誤嚥性肺炎などの危険な状態に陥ってしまうことも。そのような状態にならないためにも、痰や唾液が多い利用者にとって喀痰吸引は欠かせません。
吸引は口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内(挿入している場合)の3か所から行います。それぞれ少しずつやり方が異なるので、ケアの提供前には必ず方法を確認するようにしてください。
経管栄養
経管栄養は何らかの理由で口から食事が摂取できない場合に、チューブやカテーテルを通して胃腸に直接栄養や水分を送り込む方法です。
経管栄養には胃ろうや腸ろう、経鼻経管栄養の3種類があり、胃ろうと腸ろうは造設時に外科的手術を伴います。経管栄養は鼻の穴からチューブを通すため外科的手術は必要なく、短期間で回復が見込める場合に選択することが多いです。
以下の記事で経管栄養について詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
介護士でも経管栄養ができる!違法にならないために必要な研修とは
医療行為を行うために必要なこと
喀痰吸引と経管栄養を介護職員が行えるようになるには、研修の受講が必要です。
研修の対象となるのは、介護福祉士と介護福祉士以外の介護職員など。介護福祉士は、養成課程で喀痰吸引の技術を学びます。その他の介護職員は「喀痰吸引等研修」を受講する必要があります。
いずれも喀痰吸引に関する知識や技術を習得していることが条件となっています。
どんな研修を受ける?
介護士が受ける喀痰吸引等に関する研修には、以下の3つの課程があります。
この中で最も一般的なのは、第1号研修。さまざまな利用者に対応できるため、介護スキルを高めたい方におすすめです。どの研修を選択しても、講義と演習からなる「基本研修」と介護現場で実習を行う「実地研修」の2種類があります。
研修を受ければ完了というわけではありません。筆記試験や実地での評価もあるためしっかりと対策をするようにしましょう。
参考:厚生労働省「平成24年4月から、介護職員等による喀痰吸引等 年4月から、介護職員等による喀痰吸引等 (たんの吸引・経管栄養)についての制度がはじまります。」
研修後は認定証の発行を忘れずに
研修を修了した後は、認定証が発行されて初めて医療行為ができるようになります。
研修終了後、都道府県に「修了証明証」を添付して認定証の申請を行う必要があるので、忘れずに申請をしてください。
介護士ができない医療行為
介護士ができない医療行為にはどのようなものがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
ほとんどの医療行為はできない
一部の医療行為が介護士に許可されているのは、これまで紹介したとおりです。しかしながら、ほとんどの医療行為が禁止されているのが現状です。それでも介護の現場では、以下のような医療行為が求められる場面も珍しくありません。
- 摘便
- 床ずれの処置
- インスリン注射
- 血糖測定
- 点滴の管理
これらの手技は全て介護士が行うことは禁止されており、看護師などの医療従事者に対応してもらう必要があります。
介護士がサポートできることはある!
ほとんどの医療行為はできないものの、介護士がサポートできることはあります。
例えば介護士が利用者に直接インスリン注射を打つことは禁止されていますが、利用者が確実にインスリンを打てるように支援をすることは可能です。その他にも血糖測定器のセットや測定時の声かけなども許可されています。
医療行為をする際の注意点
医療行為のニーズの高まりにより、介護士ができる医療行為は増えてきています。しかしどのような行為でも医療行為であることには変わりないので、医師や看護師と連携をした上で慎重に行うようにしましょう。
実際に医療行為をする際に、どのような点に気をつければよいのかをご説明します。
医療行為違反に注意
利用者やそのご家族の中には、血糖測定やインスリン注射を「医療行為」と認識していない方もいます。そのため介護士ができない医療行為をお願いされることがありますが、強い意志で断るようにしてください。
インスリン注射などは患者自身や家族が打つことが多く、大したことがないように思われがちな行為です。しかしインスリン注射も血糖測定も医療行為。一歩間違えば重大な医療事故に繋がる危険性があります。
医療行為違反を起こさないために、正しい知識を身に付け、介護士ができること・できないことをしっかりと認識しておくことが重要です。
これって医療行為?迷ったら相談しよう
自分がやろうとしているケアが医療行為かどうか迷った場合は、自己判断せず、必ず医師や看護師などの専門的な知識を持つスタッフに相談するようにしましょう。
利用者が安心して過ごせるように、法律で決められた範囲の仕事を行ってください。
まとめ
できない医療行為は多くても、日頃から勉強して医療知識を身につけておくことは決して無駄ではありません。
普段から利用者の様子を細かく見ている介護士にしか気付けないことはたくさんあるため、それを素早く医療従事者に伝えられれば適切な対処に繋がります。
働く上で「これはやってもいいのか」と悩む場面もあるでしょう。自身を守り、利用者の安心を守るために、介護士の仕事の範囲はしっかりと覚えておきましょう。
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