在宅医療が推進され、介護現場で医療行為を必要とする利用者が増えています。医療行為は本来、医師や看護師等が行うものですが、介護士も一部実施が認められています。その一つが経管栄養です。
かつて介護士の医療行為は止むを得ないものとして、一定の要件のもとで行われてきましたが、より安全に実施できるよう2012年に法律が改正されました。法改正によって、介護士が医療行為を行うための、条件が定められました。
この記事では、経管栄養とはどのようなものか、介護士が経管栄養を行うために必要なことを解説します。また経管栄養を実施する際の手順も紹介するので、参考にしてみてください。
経管栄養とは
経管栄養とは、口から摂取する食事の代わりに鼻・胃・腸に挿入した管から栄養剤を注入し、栄養補給を行うことです。
栄養状態の改善やそれに伴う病態の治療を目的とした栄養療法の一種で、何らかの理由で口から栄養を摂取することが困難になった場合に行われます。
点滴で栄養補給をする方法もありますが、経管栄養は消化管機能を促進し、腸管免疫を刺激できるため、全身の免疫状態の改善につながります。
介護士が実施できる経管栄養は、「経鼻経管栄養」「胃ろう」「腸ろう」の3種類です。それぞれを詳しく解説します。
経鼻経管栄養
経鼻経管栄養は、鼻から管を入れて栄養剤を注入する方法で、主に経管栄養の実施期間が短い方に使用されます。また、以下のような方も経鼻経管栄養が行われているケースが多いです。
- 胃を切除して胃ろうが作れない方
- 重症心身障がいで胃ろうが作れない子ども
経鼻経管栄養のメリットは、他の方法と比べて管の挿入がしやすいことです。しかしその分抜けやすく、抜けてしまうと誤嚥につながりやすいというデメリットがあります。また管が細いため詰まりやすく、1〜2週間ごとの管の交換も必要です。
常に鼻から管が挿入されているため不快感や苦痛が伴うこと、外見上目立つこともデメリットとしてあげられます。
胃ろう
胃ろうは、腹部の表面から胃まで貫通する穴をつくり、専用の管を挿入して栄養剤を注入する方法です。4週間以上の長期にわたる経管栄養が必要で、胃に問題がない方が対象となります。具体的な対象例は以下の通りです。
- 食道・頭部・頸部の腫瘍により食道に狭窄がある方
- 脳血管疾患や神経変性疾患で嚥下機能が低下・意識障害が見られる方
胃ろうのメリットは、見た目でわかりにくく管が抜けにくいことや、交換が4〜5か月ごとで済むことです。一方、デメリットは最初に胃ろうをつくるための手術が必要であること、胃ろう付近の皮膚のトラブルや腹膜炎などの合併症が起こるリスクがあることなどが挙げられます。
腸ろう
腸ろうは、長期にわたって経管栄養を行う方で、胃の手術・変形・進行がんなどの理由により胃ろうをつくれない場合に行われる方法です。腸ろうは以下の3つに分けられます。
- 胃ろうの中を通すもの
- ろう孔(胃ろうをつくるために開けた穴)に直接腸ろう用の管を挿入するもの
- 胃ろうのように皮膚の表面から腸をつなぐ穴をつくるもの
腸ろうは、胃ろうよりも細くて長い管を使うため詰まりやすく、慎重な管理が必要です。3つのうち胃ろうの中を通すものは、とくに管が細いため注意しなくてはなりません。
参考:厚生労働省「平成24年度喀痰吸引等指導者講習事業 喀痰吸引等研修テキスト 第三号研修(特定の者対象)」 / 一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会「静脈経腸栄養ガイドライン 第3版」
介護士が経管栄養を行うには?
介護士が経管栄養を行うには、以下の条件を満たす必要があります。
- 「喀痰吸引等研修」を修了すること
- 「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受けていること
- 「登録事業者」として登録済みの施設で勤務していること
経管栄養は医療行為であり、研修を受けずに行うと違法になります。過去には、介護士が研修を受けずに経管栄養などを実施し、当事者や施設長が罪に問われた事例もあります。
喀痰吸引等研修を受講する
喀痰吸引等研修は業務内容によって3つに分けられます。それぞれ詳しく解説しましょう。
第1号研修
第1号研修を受けると、不特定多数に対して以下の行為すべてが実施できるようになります。
- 口腔内喀痰吸引
- 鼻腔内喀痰吸引
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引
- 胃ろう・腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
約50時間の講義と各行為のシミュレーター演習を行う基本研修に加え、対象となる行為すべての実地研修が必要です。研修の修了には15日ほどかかります。
この研修は、医療行為が必要な方が多い特別養護老人ホームなどに勤務する介護士の受講が望ましいとされています。実務者研修を修了した方は、基本研修の受講が免除されます。
第2号研修
第2号研修は、第1号研修と基本研修は同じです。異なるのは実地研修のみで、第1号研修の対象となる行為の中から必要なものだけ選びます。研修修了までに必要な期間は、履修する行為の数によりますが、第1号研修と比べ1〜2日少ない程度です。
第3号研修
第3号研修は、重度の障がいがある特定の利用者に、その人が必要な行為を行えるようになるものです。基本研修(8時間の講義と1時間のシミュレーター演習)と対象となる人が必要とする行為の実地研修を行います。研修修了に必要な期間は2日間程度です。
障害者介護に従事する介護士や、障害者支援施設等に勤務する職員向けの研修です。新たに実施する行為や利用者を増やしたいときには、実地研修を新たに受講する必要があります。
喀痰吸引研修の実施場所は、各都道府県によって異なります。ホームページに登録研修機関が掲載されているので、確認してみると良いでしょう。
費用は実施する事業者によって差がありますが、第1・2号研修が10〜20万円、第3号研修は数万円程度であることが多いです。
喀痰吸引等研修は「特定一般教育訓練給付制度」の対象となっており、費用の40%(年間上限20万円)の給付を受けることもできます。受給要件に関しては、お住まいの自治体のハローワークで確認してみてください。
参考:厚生労働省「特定一般教育訓練給付制度のご案内」
認定証の交付を受ける
研修を修了しただけでは、経管栄養を実施することはできません。都道府県知事の認定を受け、「認定特定行為業務従事者認定証」を交付してもらう必要があります。
認定証の交付を受けるためには、申請書の提出が必要です。必要書類についてはお住まいの都道府県の担当窓口で確認してみてください。
経管栄養が行える職場で働く
介護士が経管栄養を行うには、介護士自身が研修を受けるだけでなく、職場が登録事業者として登録されている必要があります。
登録するには、医師や看護職員など医療関係者との連携が確保されていること、記録の整備、医療行為を安全・適正に実施するための必要な措置が取られていることなど、定められた要件を満たさなくてはなりません。
登録できる施設や事業所の例として、以下のような場所が挙げられます。
- 介護関係施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、グループホーム、有料老人ホーム、デイサービスなど)
- 障害者支援施設等(生活介護、グループホームなど)
- 在宅(訪問介護、重度訪問介護など)
- 特別支援学校
医療機関は対象外となるため、病院などで働いている介護士は経管栄養を行うことはできません。
参考:厚生労働省「社会福祉士及び介護福祉士法施行規則の一部を改正する省令案について」 / 「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」 / 東京都福祉保健局「社会福祉士及び介護福祉士法施行規則の一部を改正する省令の公布について(通知)」
経管栄養を実施する手順
経管栄養を行うときは、準備から実施、終了までの流れや観察ポイントをきちんと理解する必要があります。対象となる方の病状に合わせた注意点もあるので、個別の状況についても確認しておくことが大切です。
ここでは、経管栄養の一般的な流れにおける具体的な手順と注意点について解説します。
準備
まずは経管栄養の準備です。始める前に記録を見て、前回実施時の様子や医師等の指示内容、本人の現在の様子を確認します。腹痛や張り、下痢等の腹部症状、発熱などがある場合は、本人・家族・看護師などの医療関係者に報告と確認が必要です。
実施に問題がないことが確認できたら、手洗い・消毒をして必要物品をそろえましょう。経管栄養に必要となる主な物品は以下の通りです。
- 注入用バッグ
- カテーテルチップ型シリンジ
- 栄養剤
- 白湯
- 膿盆または洗面器
- 注入用バッグを吊るすスタンドやフック
栄養剤の種類や量、白湯の量は個別に指示があるので間違えないようにきちんと確認しましょう。温度は基本的に常温ですが、本人の好みや各家庭のやり方がある場合は、それに従います。湯せんで温めるときは、温度に注意が必要です。
実施と観察
準備ができたら、実施に移ります。注入を始める前に、本人に経管栄養を始めることを伝え、意思を確認しましょう。
- 注入開始
本人の了承を得たら、栄養剤の逆流防止のため、頭側を30〜60度上げて体位を整えます。胃ろうや経鼻カテーテルなどの管が抜けたり破損したりしていないか、胃ろう・腸ろう周囲の皮膚に異常はないかを確認し、注入を開始します。 - 調整
注入速度は人によってやや異なりますが、嘔吐等がなければ1時間に200ml(3秒に2滴程度)のスピードで調節します。医師等が許容する範囲であれば、利用者の好みや状態に合わせて多少調整することは可能です。 - 観察
注入中は体調に異常がないか、栄養剤の漏れはないか、注入速度が速くなったり遅くなったりしていないかなどを観察します。万が一、異常が見られた場合は注入をいったん停止し、看護師等に指示を仰ぎましょう。 - 注入終了
注入が終了したら、注入用バッグ側の管を外して、カテーテルチップ型シリンジで白湯を注入します。終了後も、吐き気や嘔吐などの体調不良がないか観察するようにしましょう。
後片付けと記録
注入後も問題がなければ、使用した物品を片付けます。注入した栄養剤の量や体調不良の有無など、必要事項の記録は速やかに行いましょう。
参考:厚生労働省「平成24年度喀痰吸引等指導者講習事業 喀痰吸引等研修テキスト 第三号研修(特定の者対象)」
まとめ
介護の現場は常に人手不足であり、本来は看護師等が行うべき医療行為を介護士に求められることもあるかもしれません。しかし、研修を受けていない介護士が医療行為を行うのは違法です。実施した場合は罪に問われたり、万が一異常が起きたときに対応できなかったりする可能性もあります。
経管栄養は、きちんと研修を受ければ介護士でも実施できます。現場に合わせた必要な研修を受け、登録された事業所で実施する必要があることを認識しておきましょう。
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ライター 小松亜矢子
地域看護に関心のあるライター。看護師の資格を持ち、地域でコミュニティナースとして活動中。
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