介護業界は、慢性的な人材不足といわれています。「求人募集をしても人が集まらない」「せっかく採用しても、すぐに辞めてしまう」などの声を耳にすることが少なくありません。高齢化社会が進む日本で、介護士の不足は、社会問題の一つです。本記事では、介護士が不足している理由や、その対策について分かりやすく解説していきます。
介護士が不足している理由
介護士が不足しているのには、いくつかの理由が考えられます。介護士となる人材の問題、職場の問題、勤務先の給与や待遇の問題、介護業界に対するマイナスなイメージなど、さまざまな要因が複合的に絡み合っているのが実情です。
おもな介護士不足の理由を4つまとめてご紹介します。
離職率が高い
介護士は採用率に比べて離職率が高い業界です。公益財団法人 介護労働安定センターがまとめた「令和2年度介護労働実態調査」によると、2019年1年間の全産業の入職率は16.7%なのに比べて、2019年10~2020年9月の介護士(訪問介護員と介護職員の2職種計)の採用率は16.2%でした。
一方で、2019年1年間の全産業の離職率は15.6%に対して、介護士は14.9%と、採用率や離職率の差はほとんどありません。しかし、施設介護における介護士の常勤職員の離職率16.7%に比べて、全産業の一般労働者の離職率は11.4%でした。常勤の施設介護職員のほうが、5.3ポイントも高くなっています。
また、事業所調査によれば、介護士のうち勤続3年未満の離職者が、離職者全体の約6割を占めています。介護業界の離職率が高い原因は、勤続年数の短い介護士で離職や転職をする人が多いことも大きな理由と考えられます。
参考:介護労働安定センター「令和2年度介護労働実態調査」「介護労働の現状について」
厚生労働省「2019 年(令和元年)雇用動向調査結果の概況」「介護人材の確保について」
人間関係のトラブルが多い
介護の現場は、上司や同僚、部下との人間関係で問題が起きやすいのも、介護士が不足する理由の一つです。公益財団法人介護労働安定センターの「令和2年度介護労働実態調査」で、介護関係の仕事を辞めた理由をアンケートしたところ、介護士全体の上位は「職場での人間関係に問題があったため」が23.9%を占めています。
また、特に相談窓口がない職場の介護士は、職場での人間関係についての悩みが高くなっているのもポイントです。「職場での人間関係について特に悩み、不安、不満等を感じていない」と回答した人のうち、相談窓口がある介護士は42.1%なのに対して、相談窓口のない介護士は22.9%で19.2ポイント差があります。
また、「悩みの相談相手がいない、相談窓口がない」と回答した介護士のうち、相談窓口がある介護士は3.3%、相談窓口がない介護士は19.3%でした。なんと、16.0ポイントの差が開いています。介護士の離職理由のトップは、職場での人間関係のトラブルで、相談窓口がない施設に勤務する介護士ほど人間関係の悩みや不安を抱えたまま仕事をしていることがわかります。
参考:介護労働安定センター「令和2年度介護労働実態調査」
給料が低い
厚生労働省が発表した「令和2年度介護従事者処遇等調査結果」によると、常勤の介護士の平均月収は31万5,850円でした。一方で、経団連の「2020年6月度『定期賃金調査結果』の概要」によると、全産業の平均月収は 39万2,717 円です。介護士は、全産業の月収より約8万円も下回っていることがわかります。
また、公益財団法人介護労働安定センターの「令和2年度介護労働実態調査」によると、介護関係の仕事を辞めた理由のうち、「収入が少なかったため」と答えたのは男性22.9%、女性13.7%でした。一方で、「自分の将来の見込みが立たなかったため」と答えた割合は、男性26.9%、女性11.9%となっており、収入や待遇をはじめ、自身の介護職のキャリアに将来性を感じられないようすがうかがえます。
参考:厚生労働省「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果」 日本経済団体連合会「2020 年6月度「定期賃金調査結果」の概要」介護労働安定センター「令和2年度介護労働実態調査」
ネガティブなイメージを抱く人が多い
介護士は、仕事がハードで大変というブラックな業界をイメージする人が多いのも、介護業界に人が集まらない理由と考えられます。2010年(平成22年)の内閣府「介護保険制度に関する世論調査」によると、介護士に対するイメージを複数回答でアンケートした結果の上位は以下のとおりです。
- 夜勤などがあり、きつい仕事:65.1%
- 社会的に意義のある仕事:58.2%
- 給与水準が低い仕事:54.3%
- 将来制に不安がある仕事:12.5%
介護士に対して、ポジティブなイメージがある回答もありますが、回答の半数はネガティブなイメージが強く、人材確保のハードルを上げている原因となっていることがうかがえます。
参考:内閣府「介護保険制度に関する世論調査」
介護士の人材不足への対策
介護士は、離職率が高く、職場での人間関係のトラブルで辞める介護士が多いほか、給与水準が低く、職業としてネガティブなイメージを抱く人が多い傾向です。介護士の人材不足解消のため、どのような対策が考えられるのでしょうか。ここでは、国や業界で改善が進められている具体的な対策を4つご紹介します。
ITの導入によって業務効率化を図る
業務効率化で介護スタッフの負担を軽減することも方法の一つです。特に、介護にまつわる事務作業は、IT化により大幅に介護士の業務をスムーズにして、利用者への介護サービスの質向上に力を注ぐことが期待できるでしょう。
総務や人事の事務処理のなかで、勤怠管理や給与計算などはITの導入で効率的な業務が実現可能です。また、日々の業務で必要な介護記録の作成でもIT化が役立ちます。利用者のバイタルチェックやその日の様子などを手書きからデータで共有すれば、人材不足の職場でも業務を効率よく進められるでしょう。
参考:厚生労働省「介護現場におけるICTの利用促進」
ユニットケアの導入
10人程度の利用者を1ユニットにして、専任の介護士が小規模な集団生活をサポートするのがユニットケアです。これまでの大人数の介護施設よりも少人数のため一人ひとりの利用者に合わせたきめ細かい介護が期待できます。
介護士は、少人数の利用者のユニットごとに介護が可能です。介護士同士の人間関係のトラブルも起きづらく、介護士により広い裁量が任せられていて、ストレス緩和にもつながります。
参考:日本ユニットケア促進センター厚労省「個室ユニット型施設の推進に関する検討会 報告書」
働きやすい環境の整備
給与や待遇アップはもちろん、福利厚生を充実させて介護士のワークライフバランスをサポートしたり、健康増進や産休・育児をしやすい制度を整備したりすることも方法の一つです。また、介護や福祉関連分野の資格取得費用の補助や研修セミナーの開催など、スキルアップや成長をサポートする自己啓発関連の制度も必要でしょう。
介護士が「就職したい」「ずっと働きたい」と感じられる魅力的な環境づくりが、人材の定着に欠かせません。
参考:厚生労働省「介護人材確保に向けた取り組み」「介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント」
外国人の人材を受け入れる
慢性化する介護業界の人材不足をカバーするため、外国人の人材活用も進められています。2017年11月、外国人技能実習制度に介護職種が加わりました。一定以上の日本語の能力があって、介護の業務経験がある外国人を技能実習生として日本に受け入れています。
今後、外国人介護士は現場での増加が見込まれており、外国人の人材を活用すれば、介護士のスタッフ数を増やすことが期待できるでしょう。「日本で介護を学びたい」「介護を仕事にしたい」と考えている意欲的な外国人を採用すれば、人手不足を解消できます。
また、日本人介護士とは異なる文化や風習、考え方を持っているため、お互いを受け入れたり、これまで気付かなかった職場の改善点も明らかになったりするでしょう。施設のブランディングを高める効果も期待できます。
参考:国際人材協力機構「外国人技能実習制度とは」 厚労省「外国人技能実習制度への介護職種の追加について」
まとめ
介護士が不足している理由には、おもに以下の4つがあります。
- 離職率が高い
- 職場での人間関係のトラブルが多い
- 給与水準が低く将来性が見えない
- 介護士にネガティブなイメージを抱く人が多い
介護の現場では、働きやすい職場づくりを目指して、介護士が介護業界を目指すきっかけを作る必要があります。そのためにも、IT化やユニットケアの導入、職場の環境整備、外国人人材の活用など、さまざまな対策を取り入れていくことが大切です。
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