日本は、少子高齢化が進んでいることもあり、労働人口は減少し続けています。どの業界でも人出不足に悩む声が聞かれますが、中でも特に深刻なのが介護業界です。介護の手を必要とする人が増える一方で、業務を担う人数は決して十分とは言えません。今回は、介護業界が抱える課題と解決の方法や事例について紹介していきます。
ターニングポイントとなる「2040年問題」
厚生労働省のデータによると、日本の人口は2008年の約1億2,808万人をピークに減少し続けています。「2040年問題」とは、その影響がさまざまな分野であらわれることの総称として使われている言葉です。少子高齢化が進む日本の現状を解説します。
少子高齢化が進む日本
「2040年問題」のポイントは、大きく分けると以下の2つです。
- 2025~2040年の15年間で、現役人口20~64歳の人が約1,000万人も減少する
- 2040年には、第次ベビーブームで誕生した「団塊ジュニア世代」が65~70歳となる
労働力の中心となる世代が激減する中、65歳以上の高齢者人口が35%以上になることが予測されており、高齢化はピークを迎えます。75歳以上人口に関しては、2030年代になると一時的に増加が落ち着く見込みですが、2054年までは増加傾向です。
労働力が不足すると、経済成長は見込めません。また、高齢者の割合の増加にともない、社会への負担はさらに強まっていきます。
将来的に必要となる介護士の人数
2021年に厚生労働省が発表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」によると、2023年に必要とされる介護士の人数は約233万人です。2019年の211万人と比較すると約22万人が不足しています。さらに、2025年には約32万人、2040年には約69万人もの不足となっていきます。現状でも介護士の不足は、しばしば問題として挙げられています。
これらの問題の背景にあるのは、採用の困難さです。介護職に対し、勤務時間が長く、労働内容が厳しいわりに給料が良くないなどのネガティブな印象を持っている人も少なくありません。そのため、ただでさえ少なくなってきている若手人材の採用が、さらに難しくなっています。また、高齢化の進行に伴い、介護施設の新設が相次いでいるため、求人も増加傾向です。
採用競争が激化する中で、介護士の供給が追いついていないのが現状です。しかし、2007年をピークに介護士の離職率は低下傾向で、全業種を下回るようになり、人材の不足感にも改善の兆しが垣間見えます。介護現場の労働環境に目が向けられるようになり、仕事への不満が少しずつ解消していることが理由として考えられます。
現状、将来的な介護士の不足は避けられません。しかし、労働環境の改善をはじめとする対策や努力によって、わずかながら希望が見え始めています。
参考:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」
公益財団法人 介護労働安定センター 令和2年度「介護労働実態調査」
介護施設の人材不足を解決するための方法とは
介護施設での人材不足解消に向けた方法を解説します。
働きやすい環境の整備
介護施設の人材不足を解消していくためには、現在働いている介護士にできるだけ長く在籍してもらう必要があります。そのためには、「ここで長く働きたい!」と思われる職場環境を整えていかなければなりません。介護現場で働く人に対して行なったアンケート調査によると、82.8%が現職に不満を持っているようです。また、具体的な不満では「正当に評価されていない(45.7%)」が最も多い結果でした。
自分では力を尽くして仕事をしているつもりでも、正しく評価されていないと感じるとモチベーションが低下し、離職につながる可能性が高まります。正しい評価制度の整備は、人材不足解消に向けた第一歩です。「人員不足」も、介護士を苦しめる大きな要因の一つと言えるでしょう。改善するためには、介護士にかかる負担をできる限り減らす工夫が必要です。
例えば、「IT技術を活用して見守り体制を強化する」「適切なおむつ交換のタイミングを計る」などの方法があります。また、介護ロボットの導入により身体への負担を軽減するのも有効な策です。介護士への精神的なケアにも配慮し、悩みを相談できる機会を設けることも、働きやすい環境づくりには欠かせません。中でも第一に考えたいのが、給与の見直しです。
国では、令和3年度介護報酬改定により、処遇改善や介護職員間の配分ルールを柔軟化。介護士の月額報酬の引き上げを目指しています。そのため、以前と比べると、介護士の収入はほかの職種との差がなくなってきました。責任の大きい業務内容に見合う十分な給与の支払いが求められます。
参考:株式会社コーディアリティケア 「介護のお仕事」に関するアンケート調査
厚生労働省 「総合的な介護人材確保対策(主な取組)」
外国人の人材を受け入れる
国の体制として、「特定技能」など外国人介護人材の受入環境の整備が進められています。施設側でも外国人の人材を柔軟に受け入れ、介護士人数を増やしていくことが必要です。海外からの介護人材を受け入れるためには、施設でもさまざまな準備が必要でしょう。時には、新しい設備やルールの整備が求められる場合もあります。
国内の介護人材だけでは絶対数が足りなくなる事態に対して、施設としても多少の負担は避けられません。人材活用の多様化を前向きにとらえて、しっかりと準備を整えていくことが大切です。
参考:厚生労働省 「総合的な介護人材確保対策(主な取組)」
資格取得の支援を手厚くする
介護施設で働くのに、特に資格は必要ありません。しかし、初任者研修や実務者研修を受けると、介護の基本的なスキルを身に付けられ、キャリアアップにも役立ちます。上級の資格としては、介護福祉士や介護支援専門員(ケアマネージャー)などがあり、資格に応じた給与や待遇が期待できるでしょう。
施設側に資格取得支援の制度があれば、従業員に資格の取得を奨励し、提供する介護の質を向上させることも可能です。学費の返還免除制度や取得推奨制度を整備するのも良いでしょう。学習時間への配慮がある施設にはプロの介護士を目指すスタッフが就職しやすいと考えられます。
介護士としての将来を考えた場合、資格取得は働く側にとって重要なポイントです。業務内容も資格があるのとないのとでは、大きく異なります。また、収入の面でも有利になります。資格取得支援のある介護施設は、応募先として魅力的に映るでしょう。
人材不足を解消した成功事例
介護施設が人材不足の解消に成功した事例を紹介します。
採用方法の見直し
ターゲットの設定を明確にし、そこにマッチした媒体を選んでアピールすることで、採用の成功率を高めることができます。介護施設では、「とにかく人材を確保したい」という気持ちが先行して、ターゲットに合っていない表現をしているケースもあるので見直してみましょう。
例えば、夜勤がある施設にもかかわらず「子育て中でも大丈夫」、若手人材を希望していながら「シニア活躍中」といった表現では、応募してくる層とのズレが生じかねません。ミスマッチを軽減するためにも、ターゲットの明確な設定と、それに合わせたアピールをしっかりと行なっていくことが大切です。
採用に成功している施設では、ブログやSNSなどを活用し、施設の様子や業務内容がよく伝わるような工夫をしています。働くイメージを持ってもらうために画像や動画を上手く使ったり、ターゲットに合わせた媒体を選択したりすることで、採用したい人材層へのアプローチを強化できます。
外国人の受け入れ
外国人の介護士を積極的に受け入れて、人材不足解消に成功している事例もあります。ポイントとなるのは、公正な待遇です。日本人スタッフとの差を付けず、能力に適した給与やボーナスの額を設定することで、やりがいをもって仕事に励んでもらえます。
また、「親身になって指導する担当者を付ける」「同国の先輩スタッフを相談役にする」といったメンタル面でのサポート体制が、孤立を防ぐ工夫として有効です。介護福祉士の資格取得や、日本語教育サポート制度を置く施設も多く、安心して働ける環境の提供が、成功の秘訣です。
見守りシステムの導入
見守りシステムは、介護スタッフが少ない夜間でも利用者の動きをいち早く捉えることができ、業務の負担軽減に役立ちます。例えば、起き上がりや座った動作など、利用者の行動パターンに合わせた通知設定ができます。これにより、介護スタッフは利用者の動きやタイミングに合わせて対応することが可能です。業務の負担軽減だけではなく、事故の防止にも効果的です。
システム導入により転倒事故が大きく減少したり、利用者との適度な関わり方ができるようになったりと、介護スタッフと利用者の信頼関係の強化にも役立ちます。
まとめ
介護の仕事は、社会貢献としても大きな意義があります。しかし、責任の重さや業務内容の大変さから、需要に対する労働力の不足が大きな課題となっています。少子高齢化が進む時代では、何としても介護士を確保する必要があります。
労働環境の改善による介護士採用の増強や、外国人介護士の活用、IT技術によるサポートの導入など、多様な手段を用いた課題解決への取り組みが求められています。
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