保育士資格を活かした働き方のひとつに「病児保育」という選択肢があることをご存知でしょうか?共働き世帯の増加や、仕事と子育ての両立のために病児保育サービスの需要が高まっています。
そんななか「忙しい保護者の代わりに病気の子どもを預かりたい」「心細い思いをしている子どもの気持ちに寄り添いたい」と考え、病児保育士を目指す人も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、病児保育士になるために必要な資格や、具体的な仕事内容を解説します。
病児保育とは?
病児保育とは、病気の子どもを保護者の代わりに一時的に預かる保育サービスです。病児保育に関わる保育士を「病児保育士」と呼びます。
一般的な保育園では、発熱が37.5℃以上の場合は保育できず、保護者にお迎えにきてもらいます。体調を崩しやすい子どもは保育園からの呼び出し回数が多く、保護者がその度に早退・欠勤を繰り返すのは大変です。そんな保護者の代わりに保育をおこなうのが「乳幼児健康支援一時預かり事業」のひとつである病児保育です。
内閣府の資料によると、病児保育を利用する延べ人数は、この10年で2倍以上となっています。病児保育を実施する施設も右肩上がりで増加し、ニーズの高まりがうかがえます。ここからは、病児保育の施設の種類や、病児保育士が働く場所をご紹介します。
参考:内閣府「病児保育事業」
病児保育の種類
病児保育は事業類型別に、以下のような種類があります。
病児対応
病気になり始めた時期から回復期までの子どもを預かるのが「病児対応型」のサービスです。病児保育専門の施設や医療機関に併設されている施設で保育をおこなうのが一般的です。
施設によって異なりますが、入院治療が必要な場合や、はしかなど感染力の高い病気は利用できないケースも珍しくありません。
病後児対応
主に病気が回復期にある子どもを預かるのが「病後児対応型」のサービスです。病児対応型サービスと同じ施設での保育が一般的ですが、看護師が常駐している場合は保育園内に併設されているケースもあります。
基本的には「解熱はしたものの食欲が戻らない」「ぜんそくなどの慢性的な病気で体力が消耗している」といった子どもを預かります。
保育園内対応
保育中に発熱が見られ、そのまま保育園内で病児保育児として対応することを「体調不良児対応型」といいます。保護者にとっては、行き慣れた保育園でそのまま病児保育をおこなってもらえるため安心して任せられるはずです。
しかし、体調不良児対応型対応をおこなうには利用者の有無にかかわらず看護師の常駐が義務付けられており、規模の小さい保育園では導入が進んでいないのが現状です。
参考:内閣府「体調不良時対応型保育事業の概要」
訪問対応
病気の子どもを抱える保護者からの依頼で、自宅に訪問して病児保育をおこなう方法を「非施設型(訪問型)」といいます。慣れ親しんでいる自宅で過ごせると、病気で心細い思いをしている子どもにとっても安心して過ごせるといえるでしょう。
訪問対応をおこなう場合は、保護者が帰宅するまでの間が勤務時間となり一定の研修を修了した者でなければ担当できません。
病児保育士が働く場所
病児保育士として対応するのは病児・病後児ですが、勤務先はさまざまです。非施設型(訪問型)であれば、依頼主の自宅が勤務先となります。そのほか、病児保育士が働く場所は以下のとおりです。
病児保育専門の施設
病児保育士が働く場所として、まず「病児保育専門施設」が挙げられます。看護師が常駐しており、病児・病後児のみを対象に保育します。NPO法人や民間企業が運営しているケースが多く、働く保護者にとって心強い味方となる施設です。しかし、施設数は少なく単独施設は病児保育施設全体の1割程度です。
医療機関管轄の施設
医療機関内に併設されている病児保育施設で働くケースも多いです。特に病児対応型の場合、事業所の半数以上が診療所や病院に併設されています。病児・病後児保育事業は「近隣病院から駆け付けられるなどの迅速な対応が可能であれば看護師などの職員常駐は必須としない」と定められています。
そのため、医療機関管轄の施設は病児保育の求人のなかでも比較的多いといえるでしょう。ここで混同してしまうのが「病棟保育士」や「院内保育士」です。
病棟保育士は病棟に入院する子ども達を保育し、院内保育士は病院関係者の子どもを保育します。どちらも病児保育士とは異なるため、求人を探す際は注意が必要です。
病棟保育士の詳しい概要は以下の記事にまとめていますので参考にしてください。
病棟保育士とは?小児病棟で働くスケジュールや必要な資格を解説!
保育園併設の施設
保育園に併設されている施設での病児保育は、主に軽症の子どもや病後児を預かります。
保育園の方針によって異なりますが「発熱38℃まで」「感染症でなければ」「医師からの許可があれば」など、対応可能な基準はさまざまです。
参考:内閣府「病児保育事業」
病児保育士に必要な資格は?
病児保育士を目指すためには、保育士または看護師資格の取得が必要です。病児保育に関する決められた資格はありませんが、保育対象が体調不良の子どものため、看護や病気の知識があるに越したことはないでしょう。
そこで取得しておきたいのが、病児保育の民間資格です。資格取得は、知識やスキルの証明になるため病児保育士への就職や転職に有利になるはずです。2021年時点での調査によると、病児保育士に必要な資格、あれば有利な資格の概要は以下のとおりです。
保育士や看護師の免許
施設型の病児保育をおこなうためには、保育士や看護師の配置が定められています。そのため、病児保育士を目指すには保育士または看護師の免許が必要です。
しかし、非施設型(訪問型)の病児保育のなかには、資格がなくとも研修を受ければ勤務できるケースもあります。
認定病児保育専門士
認定病児保育専門士は、全国病児保育協議会が認定する民間資格です。病児・病後児保育に携わる保育士や看護師が対象で、病児保育の専門性を高めたり、家庭看護へつなぎ子育て支援をおこなったりすることを目的としています。
応募資格
認定病児保育専門士は、全国病児保育協議会加盟施設にて常勤で2年以上勤務している人、または非常勤で3年以上勤務し、週20時間以上働いている人が応募できます。
そのほか、施設長からの推薦状がある人や、資格認定委員会開催の「病児保育専門士認定講習会」をすべて受講できる人など条件が定められており、すべての条件を満たす必要があります。
受講概要
応募資格を満たしている保育士や看護師は、書類審査を受けたあと資格認定のための参加登録をおこない、研修会へ参加、課題・研修レポートを提出します。次に、面接や口頭試問に合格すれば資格取得可能です。なお、資格研修認定会費として25,000円、認定料として別途10,000円が必要です。
参考:全国病児保育協議会
医療保育専門士
医療保育専門士は、日本保育医学学会が認定している資格で、入院している子どもの保育をおこなう医療保育に携わる人向けの資格です。病児保育士として経験を積み、病棟保育士を目指す人におすすめの資格といえるでしょう。
応募資格
医療保育専門士の認定には、日本の保育士資格が必要です。また、病院や障害児施設、乳児院などで常勤として1年以上、非常勤の場合は年間150日以上かつ2年以上の保育経験も必要です。さらに、日本医療保育学会の正会員で、申し込み時に1年以上の会員歴があることが求められます。
受講概要
医療保育専門士は、研修やレポート・論文の提出、口頭試問などを経て認定されます。研修費用は30,000円、認定料として別途20,000円が必要です。
病児保育士の仕事内容や求められるスキル
病児保育士は、通常の保育士と異なり病児・病後児を対象に保育をおこないます。しかし、病児保育施設自体が少なく「病児保育士として活躍する知人が身近にいない」という人も多いでしょう。
そこでここからは、病児保育士の仕事内容や働くうえでのメリット・デメリット、求められるスキルなどを解説します。具体的なイメージを持つためにも参考にしてみてください。
病児保育士の主な仕事内容
病児保育士の仕事内容は施設によって異なりますが、基本的には以下のようなタイムスケジュールで勤務します。
病児保育士の動き | |
---|---|
8:30 |
・病児保育の受け入れ開始 ・保護者からのヒアリング |
9:00 |
・検温や体調チェック ・受診の有無を判断し場合によっては付き添い |
10:00 |
・症状やアレルギーを確認しておやつやミルクの提供 ・体調に合わせて静かにおこなえる遊びの提供 |
12:00 |
・検温や体調チェック ・無理のない範囲で昼食 |
13:00 | ・お昼寝や布団に横になる時間を確保 |
15:00 | ・症状やアレルギーを確認しておやつやミルクの提供 |
17:00 |
・検温や体調チェック ・保護者のお迎え時に体調の変化を報告 |
施設によって異なりますが「入院の必要はないものの高熱が続く子ども」「感染症が完治したものの体力が戻らない子ども」など、病児保育の利用理由はさまざまです。そのため、病児保育士はそれぞれの症状に合わせた看病や保育をおこなう必要があります。
一般的な保育園のように行事や外遊びをおこなわないため、体力的な負担は少ないといえるでしょう。しかし、子どもが病態が急変する可能性もあります。基本的に医療行為はおこなわないものの、常に体調の変化に留意し、場合によっては医師の診察を受けるために受診の付き添いが必要です。
病児保育士として働くメリット
病児保育士は、心身ともに弱っている子どもの保育をおこなったり、仕事を休めない保護者の代わりに子どもを看病したりする、大変やりがいのある仕事です。そのほか、病児保育士として働くやりがいは以下のとおりです。
- 病気で心細い子どもの心に寄り添える
- 保護者に感謝されることが多い
- 行事や設定保育の準備に追われることがない
- 残業や持ち帰り仕事が少ない
- 園庭遊びや散歩などがないため体力的負担が少ない
- さまざまな子どもと触れ合えるため保育士として刺激になる
病児保育士が感じる大きなメリットは、子どもや保護者の役に立てるやりがいではないでしょうか。また、書類仕事や製作物に追われることなく、余裕を持って業務と向き合えるのも特徴のひとつです。
病児保育士として働くデメリット
たくさんのメリットがある病児保育士ですが、なかには一度しか利用しない子どもも多く、子どもや保護者との信頼関係を作るのが大変な仕事でもあります。そのほか、病児保育士として働くデメリットは以下のとおりです。
- 預かる子どもが毎日変わるので継続的な支援ができない
- 保育の知識だけでなく医療に関する知識も必要
- 自身にも病気が感染するリスクがある
- 急変の可能性もあり命を預かるプレッシャーが大きい
病児保育士として働くうえで大変なのは、利用する子どもが日々変わり、その症状や特性をつかむのが大変という点です。見知らぬ場所に預けられた不安や、体調不良の辛さから1日泣き続ける子どももいます。そのため、1日中抱っこしていることも珍しくありません。
病児保育士の待遇
病児保育をおこなう施設は通常の保育園よりも少ないため、必然的に病児保育士の求人数も少ない傾向があります。非常勤としての採用も多く、お住いの地域で正社員募集が見つからないこともあるでしょう。
病児保育士の給料は一般的な保育士と大きな差はないでしょう。とはいえ、医療法人が運営する施設であれば、高収入や福利厚生の充実が期待できるはずです。また、経歴や取得資格によって待遇が異なるため、求人情報をしっかり確認しましょう。
病児保育士に求められるスキル
病児保育士には、保育や病気に関する知識だけでなく、急変時の基礎的な応急処置などのスキルが欠かせません。また、病児保育の現場は初めて会う保護者と子どもばかりです。なかには定期的に利用する人もいますが、利用頻度はそう高くありません。
短時間で関係性を築くため、高いコミュニケーションスキルが求められます。保護者から子どもに関する必要な情報を聞き出し、子どもにいち早く信頼してもらえるような対応を心がけなければなりません。
また、子どもは熱が出ていても「楽しい遊びには参加したい」と無理してしまう傾向があります。そのため、落ち着いた環境をつくり、騒がずにできる遊びを提供するための保育の引き出しが必要といえるでしょう。
まとめ
病児保育士は、働く保護者の代わりに子どもを保育する重要な仕事です。病児保育士として働くためには、保育士の資格以外に必要な資格はありません。
しかし、預かるのは病気の子ども達なので知識を持っているに越したことはないでしょう。病児保育に関する民間資格を取得しておくことで、求人応募時にスキルや知識をアピールできるはずです。
また、病気の子どもを預ける保護者の安心材料にもなるので、資格取得を目指してみてはいかがでしょうか?
ライター 山本あやか
元保育士で現在はライターとして活動中。保育士歴は10年で2児の母。幼稚園教諭一種免許と保育士資格を持つ。
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