保育園で働く先生のことを、かつては「保母さん」と呼ぶ時代がありました。しかし、児童福祉法の改正によって「保育士」に名称変更され、資格の取り扱いも以前とは異なっています。
保母資格を活用して保育園の先生をしていた人のなかには、名称が切り替わる前に保育の現場を離れた人も多いのではないでしょうか?「もう一度保育の仕事がしたい」と思ったときに、以前活用していた保母資格で保育士として働けるのか不安ですよね。
この記事では、保母さんの資格と保育士資格の違いや、資格の切り替え方法を分かりやすく解説します。しっかり手続きを済ませれば保母資格でも保育士になれるので、ぜひチャレンジしてみてください。
保母さんと保育士の違い
世代によって、保育園で働く先生は「保母さん」と認識している人も多いでしょう。
保母さんと保育士は、どちらも「保育をする」という仕事内容に大きな違いはありません。しかし、現在は総じて「保育士」と呼ぶのが一般的です。
ここからは、保母さんが保育士と呼ばれるようになった理由や、保母資格から保育士資格へと変更された経緯を簡単に解説します。
保母資格のはじまり
1948年に定められた児童福祉法により、保母資格の証明書を持つ女性のことを「保母さん」と呼ぶようになりました。この資格は、高等学校卒業が条件とされており「児童福祉施設で児童の保育に従事する女子を保母という」と定義されています。
当初は女性しか働くことのできなかった「保母さん」でしたが、1977年には、男性が「保母資格取得証明書」を得て勤務することも認められました。その流れから、保育園で働く男性を「保父さん」と呼ぶ時代もありました。
保母さんから保育士へ
保育園で働く女性を「保母さん」、男性を「保父さん」と呼んでいましたが、1999年には児童福祉法が改正され「保育士」に名称変更されました。
保育現場で働く男性職員が増えたことや、同年に制定された「男女共同参画社会基本法」が影響して、性別に区別のない呼び方に変更されたのです。つまり、保母さんは保育士の以前の呼び名であり、仕事内容に大きな違いはないといえます。
保母資格から保育士資格へ
保母さんから保育士に名称が変更されたのち、2003年に保育士資格は民間資格から国家資格に変更されました。
国家資格となった保育士資格の取得には、厚生労働省が指定する保育士養成の学校を卒業するか、受験資格を満たしたうえで保育士試験に合格するかの条件が課されました。
民間資格から国家資格への変更は、保育士の専門性を高めたり、保育の質を向上させたりといったねらいが込められています。
参考:全国社会福祉協議会「福祉のガイド」
保母さんの資格で保育士として働ける?
2003年に保育士資格は国家資格になりましたが、それ以前に保育園で保母さんとして勤務していた人も多いはずです。現在は、保母資格だけでは保育士にはなれませんが、切り替えの手続きをすれば保育士資格への変更が可能です。
国家資格と聞くと「今さら試験を受けるなんて面倒」「せっかく保母資格を持っていたのに使えないなんて」と、後ろ向きになってしまう人もいるでしょう。しかし、保母資格から保育士資格への切り替えに、特別な試験はありません。また、保母資格に期限はないので安心してください。
現在、保母資格をお持ちで「いつかまた保育園で働いてみたい」と考えるならば、事前に資格切り替えの手続きを済ませておけば、いつでも保育士として復帰できます。
保母さんの資格から保育士資格へ切り替える方法
保母資格を持っている人が保育士として働くためには、まず資格を切り替える手続きが必要になります。この手続きには、手引きを取り寄せてから保育士証が交付されるまで、約2ヶ月とされており、少し時間や手間がかかります。
保育士としての勤務が決まってから慌てないよう、事前に手続きを済ませておくことをおすすめします。資格の切り替えは、登録事務処理センターからおこなえます。簡単な手順は以下の通りです。
- 保育士登録事務処理センターから「保育士登録の手引き」を取り寄せる
- 「保育士登録の手引き」を受け取って登録手数料を支払う
- 保育士登録に必要な書類をそろえる
- 書類を保育士登録事務処理センターへ提出する
参考:保育士の登録「保育士登録申請手続き」
ここからは上記1~2に沿った詳しい手順をお伝えしていきます。
保育士登録事務処理センターから「保育士登録の手引き」を取り寄せる
はじめに、保育士登録事務処理センターから「保育士登録の手引き」を取り寄せます。保育士登録の手引きには申請書や記入例などがセットされており、保母資格から保育士資格への切り替えを希望する際は、この手引きを取り寄せる作業から始めます。
保育士登録の手引きを取り寄せるために必要なもの
- 送信用封筒1枚(返信用封筒が入る大きさであれば定型サイズでも可)
- 送信用封筒に貼る切手(重さに対して必要な金額分)
- 返信用封筒1枚(角形2号)
- 返信用封筒に貼る切手(1部請求なら140円)
保育士登録手引きを取り寄せるための手順
※宛先
〒102-0083
東京都千代田区麹町1-6-2 アーバンネットビル6階
登録事務処理センター
- 送信用封筒に上記の宛先を記入し、必要金額分の切手を貼ります
- 送信用、返信用封筒に赤字で「保育士登録の手引き〇部」と、内容を明記します
- 返信用封筒に自身の住所や氏名を記入し、請求部数に応じた切手を貼ります
- 返信用封筒を送信用封筒に入れます(折りたたんでも可)
- 切手の貼り忘れがないか確認して封をし、郵便ポストや窓口から郵送します
こちらの手引きは保育士証の再発行や氏名の書き変えの際にも必要となります。
「保育士登録の手引き」を受け取って登録手数料を支払う
保育士登録の手引きが届いたら、同封されている「専用払込用紙」を使用して登録手数料を支払います。なお、登録手数料は1人あたり4,200円です。
郵便局の窓口で支払いを済ませ、受け取った「振替払込受付証明書」は、保育士登録申請に必要なため大切に保管しておきます。また、同じく受け取る「振替払込請求書兼受領証」は、不備があったときに提示する可能性があるため、捨てずに保管しておきましょう。
保育士登録に必要な書類をそろえる
取り寄せた保育士登録の手引きに沿って、保育士登録に必要な書類を揃えます。必要な書類は以下の通りです。
- 保育士登録の手引きに同封されている「保育士登録申請書」
- 登録手数料を支払った控えの「振替払込受付証明書」
- 保育士となる資格の証明書類の原本「保母資格証明書」
- 保育士となる資格証明書類に記載されている氏名と現在の氏名が異なる場合は、その変更経緯が確認できる「現在の戸籍妙本」
今回は、保母資格から保育士への変更をメインにしていますが、保育士資格を取得したばかりの人も保育士登録が必要です。
その場合の資格証明書類には「保育士養成施設の卒業証明書」「保育士試験の合格通知」などが必要です。
書類を保育士登録事務処理センターへ提出する
必要書類が揃ったら、保育士登録事務処理センターへ提出します。宛先は、保育士登録の手引きを取り寄せた、以下の場所と同じです。
※宛先
〒102-0083
東京都千代田区麹町1-6-2 アーバンネットビル6階
登録事務処理センター
申請書類は、必ず簡易書留郵便で送付します。申請後は、各都道府県による審査を経て保育士登録簿への登録手続きがおこなわれます。その後、発行された保育士証は「登録事務処理センター」から簡易書留郵便で郵送されます。
万が一書類の不備や手続きに漏れがあった場合は、登録事務処理センターへの問い合わせが必要です。問い合わせの際は、前述した登録手数料の控えである「振替払込請求書兼受領証」や、申請書類を送付したときに発行される「簡易書留受領書」が必要になるため、大切に保管しておきましょう。
保母資格から保育士資格へ変更!困ったトラブル!
保母資格から保育士資格への変更は、手引きの取り寄せや申請書類の送付など、さまざまな注意点をチェックしなければなりません。ときには書類の不備などのトラブルに見舞われることもあるでしょう。
そこでここからは、資格の変更時によくあるトラブルとその解決法をご紹介します。
保母資格取得証明書をなくしてしまったら
保母さんとして働いていた人のなかには、長い年月の間に「保母資格取得証明書」を紛失した人もいるでしょう。
しかし、保育士資格への変更の際には「保育士となる資格の証明書類の原本」が必要となります。保母さんの資格を持っていた人は「保母資格取得証明書」を必要書類として送付しなければなりません。
万が一書類をなくしてしまった場合は、以前の発行元に再発行してもらう必要があります。再発行してもらった書類に、資格取得年月が記載されていることも確認してください。資格取得年月の記載がないものや、原本のコピーでは不可とされています。
資格を取得したときと名前が変わっている
結婚や家庭の事情により、保母資格取得から名前が変わっている人も少なくありません。その場合は、お住まいの役所で戸籍抄本や個人事項証明書を取り寄せ、保育士登録の申請書に添付しましょう。
取り寄せた書類に、旧姓と現在の姓が記載されていることを確認し、氏名変更の経緯が分かるものを添付するよう注意してください。また、各証明書は発行から6ヶ月以内のものが有効となるため、合わせて確認しておきましょう。
切り替え手続きの前に就職先を決めてしまった
保母資格から保育士資格への切り替えには、ある程度時間がかかってしまいます。手続きが完了しないまま、希望している保育園の求人を見つけることもあるでしょう。
しかし、心配は無用です。保母資格だけでは就職できないものの、保育士資格を取得できることに間違いはありませんので、希望している保育園に手続きが遅れている旨を伝えましょう。保育士証が到着次第、速やかに提出すれば問題ありません。
保母さんから保育士になるブランクは?
保育士資格への変更手続きはおこなうものの、久しぶりの就職活動や保育士として働くことが不安な人も多いのではないでしょうか。なかには保母資格を取得したにも関わらず、現場経験がない人も少なくないでしょう。
しかし、保育士のブランクに関する心配は無用です。保育士不足が深刻化している昨今、保育士資格を持っていながら現場を離れている「潜在保育士」には、手厚いサポート体制がとられています。
厚生労働省が公表している「保育士確保プラン」により、現場復帰に向けての研修や、就職準備金の貸付など再就職支援も強化されています。お住まいの市区町村によって支援内容は異なるため、どのようなバックアップがあるか調べてみてください。
参考:厚生労働省「保育士確保プラン」
まとめ
かつては「保母さん」と呼ばれていた保育士ですが、現在は女性だけでなく男性も働ける世の中になっています。しかし、保母さんの資格を取得した人のなかには「今さら自分にはできない」「もう資格が変わっているだろうし」と、保育士への就職を諦めている人も少なくないはずです。
とはいえ、保母資格も保育士資格と同じ役割を持っています。仕事内容もまた、当時と大きく変化していることはありません。保育の仕事への復職を少しでも考えている人は、まず保育士資格への変更をおこなってみてはいかがでしょうか?
現在は、潜在保育士のブランクに対応する支援も手厚くなっています。保育士資格に切り替えて、自分に合った保育園を探してみてください。
ライター 山本あやか
元保育士で現在はライターとして活動中。保育士歴は10年で2児の母。幼稚園教諭一種免許と保育士資格を持つ。
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