乳児院とは、さまざまな事情により保護者と生活できない乳児を預かり養育する施設のことです。保育士や看護師、児童指導員として乳児院での勤務を希望する人も少なくないのではないでしょうか?
そこで今回は、乳児院で働くための資格や仕事内容について詳しく解説します。また、乳児院で働くための方法についても紹介しますので参考にしてみてください。
乳児院とは?
乳児院とは、児童福祉法に定められている児童福祉施設のひとつです。保護者が事情によって家庭で育てられなくなった乳児を養育する役割を担っています。
乳児院では、およそ2歳までの乳児を24時間体制で養育しています。ここからは、乳児院の役割や入所する子どもの特徴について解説します。
乳児院の概要や役割
乳児院は、児童福祉法第37条に定められている児童福祉施設です。乳児院は主に、地方自治体や社会福祉法人などが運営しており、児童相談所などに「家庭での生活が困難」と判断された0~2歳の乳児が入所しています。
乳児院の役割は、子ども達を保護して安全な環境で養育することです。
そのため、保育士や看護師、栄養士、ソーシャルワーカーなどが協力しながら、365日24時間対応に当たります。また、児童相談所や行政機関、医療機関などによる総合的支援を受けることもあります。
乳児院では、虐待などの緊急性が問われる事例に対する一時的な保護や、保護者の病気などで家庭での養育が困難な乳児を対象としたショートステイを行っています。また、家庭復帰が見込めない乳児の長期入所も担っています。
そのほかにも、乳児が家庭復帰できるよう保護者支援としての役割も求められているのです。
乳児院に入所する子どもの特徴
乳児院には、さまざまな事情を抱えた乳児が入所しています。厚生労働省の「乳児院運営指針」によると、保護者の疾病や虐待、ネグレクト、就労、受刑などが入所理由に挙げられています。しかし、その入所理由は複雑に重層化しているのが現状です。
「保護者と家庭で暮らせない」だけではなく、虚弱児や障がい児などの養育上に課題を持っている乳児もたくさん入所しています。
参考:厚生労働省「乳児院運営指針」
乳児院と児童養護施設の違い
乳児院では、主に0~2歳の乳児が入所しており、家庭復帰が見込めると判断された子どもは保護者支援や退所後のアフターケアを徹底しながら親元へ戻ります。また、里親制度や養子縁組の制度を利用して、新しい家庭に引き取られるケースもあります。
しかし、家庭復帰や里親といった選択ができない場合は児童養護施設に措置変更となる子どもも多いようです。
児童養護施設は、乳児院とは異なり1~18歳未満の子どもが入所する施設です。乳児院では乳児の家庭的な養育が主な役割となりますが、児童養護施設で過ごす子ども達には退所後の自立支援も行っています。
乳児院で働くために必要な資格や方法とは?
乳児院で働くためには、どのような資格が必要なのでしょうか?ここからは、乳児院の職員として勤務するために必要な資格やスキルを解説します。
乳児院で働くために必要な資格
乳児院では、児童福祉法により以下の職員配置が定められています。
- 保育士
- 児童指導員
- 医師又は委託医
- 看護師
- 栄養士
- 調理員
- 個別対応職員
- 心理療法担当職員
- 家庭支援専門相談員
参考:厚生労働省「最低基準等及び措置費における職員配置基準について」
上記の配置基準を見ると、保育士や看護師、栄養士などの資格を取得していれば乳児院で勤務できることが分かります。
保育士資格を持っていない場合でも、指定の大学や大学院を卒業したり、児童福祉事業に従事して実務経験を積んだりすることで児童指導員として働くことが可能です。
比較的大きな施設であれば、上記以外の職種の募集もあるようです。
例えば、保育補助の募集がある乳児院なら、資格や経験を問わず採用される可能性もあります。保育補助は主にアルバイト・パートとして求人が出されていることが多いようです。
そのほか、配置基準には定められていませんが、事務員や用務員といった職種であれば無資格でも問題ないでしょう。
乳児院で働く人に求められるスキル
乳児院では、乳児の養育だけでなく、保護者のサポートや各機関との連携、心理支援員や医師との円滑なコミュニケーションなどが求められます。そのため、乳児に関する知識だけでなく、高いコミュニケーション能力や調整力が求められるといえるでしょう。
また乳児院は、24時間体制のため泊まり込みの勤務があります。もちろん夜の間も、ミルクや夜泣きの対応が必要なため、体力があることも条件となるでしょう。
乳児院で働く方法
乳児院で働くためには、各種求人を探したり、児童福祉施設に特化した就職フェアに参加したりする方法があります。そのほか、実習やボランティアとして経験を積む方法もあります。
保育実習や看護実習などで乳児院での経験を積めば、現場の雰囲気を理解できるだけでなく、そのまま採用につながるケースも少なくありません。
また、積極的にボランティアを申し出るのもおすすめです。ボランティアを通して人柄を理解してもらい、つながりを作ることで採用されることもあるでしょう。
乳児院での勤務を希望する際に注意が必要なのが、その採用元の母体です。乳児院を運営している社会福祉法人に採用される場合、同法人内の児童養護施設への人事異動があることも少なくないでしょう。希望する乳児院で勤務できるかどうか、異動の可能性を確認しておきましょう。
乳児院での仕事内容とスケジュール
乳児院では、さまざまな職種が集まり、協力して乳児の養育にあたります。ここからは、乳児院での主な仕事内容について解説します。
乳児院での主な仕事内容
乳児院での仕事内容は、以下のように働く職種によって異なります。
保育士
乳児院で働く保育士は、主に子ども達のお世話を担当します。ミルクや離乳食、オムツ変え、着替え、寝かしつけなどの日常生活の介助や遊びの提供など、通常の保育園と変わらない業務が中心となります。
そのほか、入浴介助など子ども達の生活全てを支える役割を担っています。また、児童相談所や保護者との連携窓口としての業務も欠かせません。
看護師
乳児院で働く看護師は、主に子ども達の健康管理をおこないます。とはいえ、保育士と同じく日常生活の介助が基本の業務です。
乳児院によって、どのくらいの割合で子どもの介助に参加するかは異なりますが、子どもの体調に留意しながら関わることが求められます。病院勤務の看護師とは違い「常に病気と向かい合わせ」ではないことが特徴です。
児童指導員
乳児院で働く児童指導員は、保育士と共に日常生活の介助をおこなうだけでなく、生活指導に関する指導計画を立案する役割を担っています。また、保護者との連携や各種専門機関との情報共有をおこなうこともあります。
栄養士・調理員
乳児院で働く栄養士や調理員は、子ども達のミルクの調乳や離乳食、幼児食の対応をおこないます。子ども達は、乳児院で24時間過ごすため、朝食~夕食、おやつなど、子ども達の食に関する責任を一手に担っているといっても過言ではありません。
そのため、通常の食品会社や学校給食に関わる栄養士とは異なり、労働時間が幅広いといった特徴があります。
そのほか、乳児院で働く医師は子ども達の健康管理を、心理担当の職員は心のケアなどをおこないます。とくに、虐待が要因で入所している子ども達には、これらの職員が協力し、慎重に対応しています。
乳児院での勤務スケジュール
乳児院での勤務内容は、働く施設によって異なります。主な勤務スケジュールは以下のとおりです。
時間 | 子ども達の様子 | 仕事内容 |
---|---|---|
7:00 | 起床・身支度・朝食 | 夜勤担当からの引継ぎ・健康観察・朝食準備・朝食介助 |
9:00 | 遊び・おやつ | 手遊びや自由遊び・おやつ準備・おやつ介助・洗濯・清掃 |
12:00 | 昼食・お昼寝準備 | 昼食準備・昼食介助・お昼寝準備 |
13:00 | お昼寝 | 寝かしつけ・順に休憩 |
15:00 | おやつ | おやつ準備・おやつ介助・お風呂準備 |
17:00 | 遊び・入浴 | 入浴介助・夕食準備 |
18:00 | 夕食・就寝準備 | 夕食介助・就寝準備・書類業務・夜勤担当への引継ぎ |
20:00 | 就寝 | 寝かしつけ・見守り・夜泣き対応 |
以上のように、乳児院の職員は子ども達の生活介助を中心にさまざまな業務をこなします。施設によっては、洗濯や清掃などの雑務をこなすこともあります。
乳児院で働くやりがいや大変さ
乳児院での勤務は、さまざまな事情を抱えた子ども達の対応が中心となります。そのため、さまざまな大変さがある一方、乳児院の職員しか味わえないやりがいもあります。ここでは、乳児院で働くやりがいと大変さを解説します。
乳児院で働くやりがい
乳児院に入所してくる乳児期の子どもは、目まぐるしい発達を見せる時期です。ハイハイやつかまり立ちを始め、歩いたり言葉を覚えたりする姿を見届けることができるのは、乳児院で働く職員のやりがいといえるでしょう。
また、乳児院で過ごす子ども達は施設を家庭と思い、職員を家族として認識しています。そんな子ども達を養育し、保護者へのサポートを繰り返すことで社会貢献というやりがいを感じられるようです。
乳児院で働く大変さ
乳児院で働くには、入所している乳児の親代わりになる覚悟が必要です。そのため、子ども達の命を預かる責任を負わなければなりません。
ときには、保護者の意思に反して子どもの入所が決定することもあり、保護者からの問い合わせや叱責に対応することもあるでしょう。
そのような保護者対応や関係機関との連携で心が疲弊することも少なくありません。また、心のケアが必要な乳児であれば夜泣きや抱っこの対応が多く、体力的に負担を感じることもあります。
まとめ
乳児院では、さまざまな事情を抱えた乳児が生活しています。子どもに対するケアだけでなく保護者への働きかけも保育士の大切な仕事です。ときには、その支援の難しさに頭を抱えることもあるでしょう。
しかし、乳児院での勤務は責任が重くかかる分、やりがいも大きいのが特徴です。乳児院での仕事内容に理解を深め、就職や転職を考えてみてはいかがでしょうか?
ライター 山本あやか
元保育士で現在はライターとして活動中。保育士歴は10年で2児の母。幼稚園教諭一種免許と保育士資格を持つ。
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