少子高齢化が進行しつつある日本社会。総務省統計局によると、2020年には総人口に占める高齢者人口の割合は28.7%で、過去最高となりました。
高齢化社会で必ず問題となるのが、介護福祉です。
「介護」という言葉にネガティブなイメージを持ってしまうという方は多いのではないでしょうか。もちろん、介護業界には課題が山積していますが、やりがいを持って介護職員として働かれている方が数多くいらっしゃるのも事実です。
この記事では、介護業界の現状や課題について解説し、バイトル営業マンと介護施設の経営者に伺った話をレポートします。
介護業界の現状・課題
日本の「高齢化」と介護業界
日本には深刻な高齢化社会の未来が待っているのはご存じの通りです。高齢者の人口が増加する中で、2000年に介護保険制度が導入されました。
この制度の導入により、公的社会保険制度の一部となった介護は、要介護状態の高齢者に対して自治体が受けるべきサービスを決める「措置」から、要介護者本人や家族が望む形での介護サービスを受ける「契約」に転換しました。これには、さまざまな事業者による競争原理が働くことで、介護サービスを向上させる狙いがありました。
下記の表を見ると、現在日本に住んでいる1億2000万人ほどの人口が44年後には8800万人ほどまで減少していくことがわかります。
今から15年後の2036年には日本人の3人に1人が65歳以上となります。このまま高齢化が進めば、間違いなく介護職に対する需要は今よりも高まるでしょう。
日本の人口推移と高齢化率の予測
出典:内閣府「平成30年版高齢社会白書」第1章 高齢化の状況
実は、2000年からの36年間で介護職員の数は3.3倍に増えています。しかし、その数は要介護者の増加ペースには追いつけていないのが現状です。
介護職員数と要介護認定数の推移
出典:厚生労働省「介護分野の現状等について」
介護業界の課題
介護業界が抱える課題は、主に2つあります。
給与が上がりづらい業界構造
介護業界の給与水準は、政府によって3年に1度実施される介護報酬改定によって定められています。
介護事業所は国から支給された介護報酬の中から運営に必要な費用を差し引き、残りを職員の賃金として支払います。そのため、給与が上がりづらい構造になっているのです。
介護職に対するネガティブなイメージ
長崎県が行った「介護の仕事のイメージについてのアンケート」では、「介護の仕事にどのようなイメージをお持ちですか」という質問に対し、全体の41.4%が「体力的、精神的にきつい」、40.2%が「給与など雇用面での待遇が悪い」と答えています。介護職には、いわゆる3K(きつい・汚い・危険)+K(給与が安い)というイメージがついて回っているといえるでしょう。
介護職のキャリア
資格なしも含めると、介護職の職種は多種多様です。資格の種類は10種類を超えています。
介護業界の平均月収は、資格を持っているか否かによって大きく隔たりがあり、キャリアアップには、資格の取得が欠かせません。
介護業界は、報酬を事業収入のベースにおいて決定するため、多くの企業が国による介護報酬改定に大きく影響を受けます。そのため、報酬加算の高い職種に人材が流れる現象が起こりやすいのです。
介護職員の離職理由
TSグループが実施した「介護職の離職に関する実態調査2020」によると、「介護職は好きだが退職した」人は全体の約7割を占めています。
介護職を退職した理由として多く挙げられたのは、「人間関係」(46.6%)と「給与面での不満」(41.0%)でした。実に2人に1人が職場での関係性が原因で退職していることになります。
介護職を退職した理由
出典:TSグループ「介護職の離職に関する実態調査」
労働環境に改善の兆しも
2019年10月より施行された「特定処遇改善加算」では、10年以上勤続の介護福祉士の給与を8万円アップすることが盛り込まれました。
しかし、現状では、業界全体で平均約2万円の賃上げにとどまっているのが実態です。対象者が「年収440万円以上」を達成していれば、この新ルールを適用する必要がないことが理由として挙げられます。
また、介護施設や在宅介護の現場では、センサーや外部通信機能を備えたロボット技術が導入されつつあります。
厚生労働省が行った実証研究によれば、スタッフによる訪室回数や、介助時間のうち排泄や巡回にかかる時間の減少が確認されたそうです。今後は介護の現場で繰り返される単純な労働の自動化が進み、労働環境の改善が見られるかもしれません。
参考:厚生労働省 老健局高齢者支援課「「介護ロボットの導入支援及び導入効果実証研究事業」事業実施報告書」
コロナ禍が介護業界にもたらした変化
有効求人倍率
下記の表の黄色い棒グラフが介護業界の有効求人倍率で、青い折れ線グラフが全産業の有効求人倍率です。
コロナ禍の影響で産業全体の有効求人倍率は下がっていますが、介護サービスの倍率はあまり変化しておらず、常に人手が足りていないことがわかります。
有効求人倍率の推移
出典:KAIGOHR 「2020年10月有効求人倍率・失業率レポート」
コロナによる経営への影響
業界全体でマイナス影響を受けていますが、特に通所介護サービスを提供している施設の経営状況が悪化しています。
テレワークの普及により要介護者の家族の在宅時間が増えたこと、新型コロナウイルスへの感染を恐れて利用を控えるようになったことなどが理由として考えられます。
新型コロナウイルスの感染拡大による経営への影響【サービス別】
出典:全国介護事業者連盟「新型コロナウイルス感染症に係る経営状況への影響について『緊急調査』集計結果」
バイトルPROの営業担当が語る介護業界の現状
介護業界の採用や経営状況はコロナ禍でどのように変化したのでしょうか。
バイトルPROの営業担当として、クライアントとのやり取りを通し、介護業界の実態を見てきた飯田晨太郎さんにお話を伺いました。
人材の定着率に課題あり。都市圏と地方の間にも格差
ー普段はどんなお仕事をされているのですか?
医療・介護業界のクライアントを対象に、資格・経験を活かせる専門職の求人サイト「バイトルPRO」の導入をご提案させていただいています。他にも、中途採用ホームページ構築・運用サービス「バイトルRHP」をおすすめしたり、DXに関する要望を伺ったりしています。
ー介護業界が採用活動に対して抱えている悩みとは?
業界全体の人手不足はもちろん、人材の定着率に大きな課題があります。人材紹介サービスに高いコストをかけて採用に至っても、結局1年未満で退職されてしまうことはよくある話です。
ー定着率が低い原因は何なのでしょうか。
デイサービスや特定施設入居者生活介護など、介護サービスの種類ごとに業務内容が異なることが原因として挙げられます。たとえば、デイサービスの施設に勤務しながら介護福祉士の資格を取得し、より高い給与所得を見込んで特別養護老人ホームに転職した場合、業務内容や拘束時間が想定していたものと違い、退職してしまうケースがあります。
ー都市圏と地方の介護施設の間に違いはありますか?
従業員の給与と採用にかける予算に大きな違いがあります。資金力がある企業が運営している介護施設は、コロナ禍においても人材紹介サービスにコストをかけていますが、社会福祉法人が経営母体だったりすると、人材採用に人員やコストをかけられていないのが現状です。
ワクチン接種への対応に追われる現場
ーコロナ禍は介護業界にどんな変化をもたらしましたか?
実のところ、業界全体の採用状況は大きく変わっていません。問題となっているのは、ワクチン接種の開始による事務作業量の増加です。
介護施設でワクチン接種がどのように進むのかヒアリングさせていただいたことがあるのですが、1週間以内に集中して行う施設が多いそうです。施設側は山のような書類の処理やデータ入力に追われることになりますよね。
ーコロナ禍による経営への影響について教えてください。
利用者が入居するタイプの介護施設に関しては、経営状況が悪化したことで採用予算が縮小されるという話はあまり聞きません。一方で、デイサービスや訪問介護を提供する施設の利用者数と売り上げは減少しています。結果的に介護業界の中で格差が広がりつつあると言えるのではないでしょうか。
ー介護業界の今後は?
現場ではロボット技術やパワードスーツの導入が始まっていますし、利用者の体温とか健康状態をチェックできるサングラスの開発も進んでいるそうです。最新技術を用いた業務の自動化は、今後さらに進んでいくでしょう。
しかし、介護保険では、介護付き有料老人ホームなどでは入居者3人に対し1人の介護職員または看護職員を配置しなくてはなりません。この法制度を再整備しなければ、業界全体で最適な人材配置を実現することはできないと思います。
介護施設経営のリアルと現場を担う方たちの想い
利用者との会話にやりがい。報酬体系と業界イメージに課題を感じる
介護業界を取り巻く社会問題、そして新型コロナウイルスによる影響を介護施設の経営者はどのように受け止めているのでしょうか。有限会社未来企画の専務取締役 森山睦史さんにお話を伺いました。
ー介護施設を経営する中でどんなところにやりがいを感じていますか?
いくつもありますが、特に身近に感じるのは、時代を築き上げてきた人生の先輩方を支援することで、ご本人やそのご家族に喜んでいただけることですね。もちろん利用者の生活をサポートすることがメインの仕事になるのですが、その中で人生において大切なことを教えていただいたりと、私たちも学びの機会を数多くいただいています。
ー介護業界全体の問題点とは?
本当にさまざまな問題点があるのですが、特に賃金の低さと介護職へのネガティブなイメージに課題を感じています。介護職は他の業種に比べて肉体的・精神的な負担が大きいわりに、平均年収が低いです。医療と介護はセットにして語られることが多いのですが、医療従事者と介護職員では世間的な見方は大きく変わってくるのではないでしょうか。
あとは、人材の評価方法を定めるのが難しいと思っています。この介護職の業務というのは施設利用者への対応が大半を占めるので、第三者との接点がとても少ないです。そうすると業界全体として閉鎖的になってしまいますし、職員のモチベーションを維持するのも難しくなってきます。
ー介護報酬は国が定めているんですよね。
今年の4月に介護報酬改定が行われました。新聞やテレビのニュースではプラス〇%という風に報じられていたりもしたのですが、実質的にはマイナス改定だったんです。このままだと介護報酬は右肩下がりを続ける一方なので、これからの数年間で事業の見直しをする必要があります。
ー人手不足を改善するための取り組みはしていますか?
この業界の経営者全員が思っていることですが、まずは報酬単価のアップが欠かせないです。その上で、より従業員が働きやすい環境を構築するというのが1つの打開策ですね。今はコロナ禍ということもあってできていないですが、福利厚生の一環として職員間の交流を目的としたイベントを開催したりしていました。
コロナ感染者が出ると休む暇もできない介護業界の現場
ー新型コロナウイルスの影響について教えてください。
日頃の予防対策にはこれまで以上に細心の注意を払うようになりました。外出を控えることはもちろんのこと、対面で施設外の方にお会いする機会はめっきり減りましたね。
私が経営する施設では職員にも利用者にもコロナ感染者は出ていないのですが、感染者が発生した施設は想像できないくらい大変な対応に追われるみたいです。感染者が出た日から2カ月くらいは、それこそ休日を返上してまで働く必要があるそうで、そういった部分にはコロナの影響を身に染みて感じています。
ー人材配置に影響はありましたか?
コロナを理由に退職というのは今のところありません。採用に関しては、新しい職員がウイルスを外から持ち込んでしまうケースが考えられるので、そこには今までになかった警戒心が必要になってきています。採用が決定したらPCR検査を受けていただくなど、その点ではコロナ前と対応方法が大きく変わりました。
まとめ
コロナ禍における介護業界の現状について、現場をよく知るバイトル営業マンと最前線で業界の課題と向き合ってきた介護施設の経営者にお話を伺いました。
介護の担い手不足は、変わらず業界全体の課題感として認識されています。また、コロナ禍は都市圏と地方、運営母体の構造や規模による格差を浮き彫りにしました。
一方で、利用者やその家族とのコミュニケーションが現場で働く介護職員の方々にとって大きなやりがいとなっているのことは、コロナ禍でも変わりありません。
コロナ前から存在する業界の課題はもちろん、現場の担い手にとってのやりがいにも注目し、改めて「介護」について考えてみてはいかがでしょうか。
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