公務員保育士は、公立の保育園や保育施設などで働く、地方自治体に採用された公務員の保育士です。
私立保育園などで働くよりも一般的に待遇が良いと言われており、公務員保育士の人気は根強くあります。
この記事では、公務員保育士が私立保育園で働く"私立保育士"とどう違うのか、どうやったら公務員保育士になれるのかについて解説します。
公務員保育士とは
公務員保育士とは、地方自治体に採用された公務員として、公立の保育園や児童福祉施設などで働く保育士を言います。"公立保育士"と呼ばれることもあります。
一方で社会福祉法人やNPO、株式会社など、自治体以外の組織が運営する私立保育園で働くのが、"私立保育士"です。
公務員保育士(公立保育士)と私立保育士は、どちらも保育士免許を取得して働いており、仕事内容そのものには大きな違いはありません。
公務員保育士と私立保育士の大きな違いは、採用過程にあります。 公務員保育士になるためには、保育士免許の試験とは別に、公務員試験にも合格しなければなりません。
各自治体がそれぞれ実施している採用試験に合格すると、公立保育園の採用候補者として登録されます。 登録された候補者の中から、自治体の保育施設等で不足している人材が採用されます。 こうして試験や選考といったハードルを乗り越えて、公務員保育士として働くことができるのです。
公務員保育士と私立保育士の違い
職場の違い
公務員保育士が働く職場は、主に公立の保育園や託児所、学童保育所などです。
こうした施設は各自治体によって運営されており、他の職種の公務員と同様に2年~4年の周期で他の園などに異動となるケースもあります。とはいえ、同じ自治体の中での異動ですから、転居を伴う異動はほとんどないと考えてよいでしょう。
公立の保育施設は、そのほとんどが児童福祉法に基づく「認可園」となっています。そのため保育の方針・子どもの受け入れ人数や保育時間などといった運営ルールは、国の指導などによってあらかじめ決められています。
もちろん私立保育園の中にも認可園として、公立保育園に近いルールのもとに運営されている施設もあります。
それでも私立の認可園の中には、英語教育を打ち出していたり、モンテッソーリ教育法を取り入れていたり、さまざまな習い事メニューを用意したりと、公立には見られない独自色を打ち出している施設が数多くあります。
どちらかといえば画一的になりがちな公立保育園の運営方針は、きゅうくつに感じられる人もいるかもしれません。自由度の高い保育を実践したい場合は、自分の共感する運営方針を採っている民間保育園を探してみるとよいでしょう。
就職までの流れの違い
公務員保育士として働くには、まずは各自治体の試験を受験し、合格しなければなりません。無事に合格すると、自治体の"採用候補者名簿"に登録されます。
名簿に載った候補者の中から、次年度の保育士の欠員枠を満たす人数だけが採用されることになります。
そのため、合格したからといってすぐに公務員保育士として働けるとは限りません。欠員枠が少なかったり、候補者が多かったりすると、選考から漏れてしまうこともあります。
合格しても採用されなかった場合は、翌年以降もチャレンジできますが、試験は再受験しなければなりません。
私立保育士の場合は、就職を希望する保育園に応募し、採用されたら働くことができます。
新卒で私立保育園に就職する場合は、大学なら4年生、短大なら2年生の6月ごろから就職活動がスタートすることが多いようです。
私立保育園の中途採用は、時期を問わず随時行われています。
保育士不足に悩む私立保育園が多いため、転職・就職はしやすいでしょう。
働き方の違い
勤務時間
公立保育園と私立保育園の運営時間は、認可保育園の場合はほとんど差がありません。どちらも朝7時頃から夜20時頃の開園となっていることが多く、開園時間の中でシフトを組むなどして運営されていることがほとんどです。
認可外保育園や独自の運営方針を採っている民間保育施設では、延長保育を長く対応していたり、休日保育を充実させていたりする場合もあります。施設によっては、シフト時間が認可保育園よりも幅広いこともあるでしょう。
休み
休暇制度も、公立保育園、私立保育園ともに違いはほとんどありません。
保育園は一般的に、平日と土曜日の保育を実施しています。日曜・祝日と年末年始は休園しますが、それ以外の休みはシフトで調整してとることになります。
異動や転勤の有無
公務員保育士の場合は、採用された自治体の中で他の施設に異動することは珍しくありません。数年の頻度で勤務先が変わることになります。
一方で私立保育士は、就職した施設の運営母体がいくつも施設を運営している場合、その運営施設間で異動することもあります。大規模な保育園経営をしている法人では、転居を伴う異動もありえます。小規模経営の場合は、退職まで同じ施設で働くこともあります。
公立・私立の違いというよりは、自治体や運営母体の特性によって異動の有無や、転勤などの負担の度合いが変わってきます。同僚たちの入れ替えがない方が自分にあっているとか、いくつかの施設で環境を変えながら働きたいなど、自分の希望と照らし合わせながら就職先を決めるのがよいでしょう。
公務員保育士の給与やボーナスは
公務員保育士を目指すかどうかを考えるときに、特に気になるのは「公立と私立で給与に違いがあるかどうか」という点ではないでしょうか。
内閣府の令和元年度調査(注)によれば、公務員保育士と私立保育士の給与には大きな差はありません。
(注)内閣府「令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果<速報値>【修正版】」私立の常勤保育士の給与月額(賞与込み)が301,823円なのに対し、公立の常勤保育士の給与月額(賞与込み)は303,113円となっています。
ただし企業内の保育所(事業所内保育事業)では、常勤保育士の給与月額(賞与込み)が238,168円など、私立保育士の中でも、保育園の運営形態によっては収入に差があることがわかります。
私立保育士の場合は、需要がそれほど高くない地域では給与が低めに設定されていることもあります。
また、初年度の月収にはさほど違いがなくても、公務員の場合は給与改定で毎年少しずつ上がっていきます。長く勤務すればするほど、給与が上がっていくのです。退職金や年金などの制度も一般的な公務員と同じように、民間に比べると手厚くなっています。
私立保育士の場合は、運営母体によっては退職金制度が用意されていなかったり、給与がなかなか上がらなかったりするケースもあるようです。
公務員保育士の方が私立保育士よりも給与やボーナスが良いと言われているのは、こうした総合的な制度が充実していることも一因でしょう。
私立保育園も就職先として検討するなら、どんな給与や福利厚生の制度がとられているのか、しっかりと調べておきましょう。
公務員保育士にどうやったらなれる?
決められた保育方針の中で安定して働けて、福利厚生が手厚いのが魅力の公務員保育士。保育士の就職先として大変人気ですが、積極的に保育士を採用している自治体はあまり多くありません。
待機児童が多く、保育士の需要も高い東京23区では、欠員が出たら保育士の募集を行う区がいくつかある程度で、毎年まとまった人数の保育士を新規採用している区は残念ながらありません(2021年6月現在)。
参考:東京23区特別区人事・厚生事務組合公式サイト「各区が実施する採用選考について」
希望する自治体の採用ページなどを確認し、定期的に保育士を募集しているかチェックしましょう。
公務員保育士になるための条件
公務員保育士になるためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 保育士資格を取得済であること もしくは 次年度の4月までに保育士資格を取得見込みであること
- 各自治体の実施する採用試験に合格すること
公務員保育士の採用試験とは
自治体によって異なりますが、保育士の採用試験の受験資格は以下のとおりです。
受験資格
- 保育士免許を取得している もしくは 次年度の4月までに保育士資格を取得見込みである
- 自治体の指定する年齢以下である
- 地方公務員法第16条の欠格事項にあたらない
例)禁錮以上の刑に処せられ、その執行が終わっていないなど
募集人数は若干名、10名以下、など少人数となっている自治体が多い傾向です。そのため競争率は数倍から10倍を超える状況が続いています。
受験の流れ
- 自治体の採用ページや窓口から受験申込書類を入手
- 受験書類提出(受験申込)
- 1次選考
例)教養試験(時事、社会などの一般知識、文章理解、数的推理など)と専門試験(保育・社会福祉に関する問題) - 2次選考(主に面接、ピアノ実技、体力テストなど)
- 合格発表
- 配属先の内定通知
合格発表から配属先の内定通知までに、最長で1年かかることもあります。合格しても、配属されないケースもあります。
選考の時期は、5月から7月といった夏に行う自治体もあれば、9月から11月といった秋に実施する自治体もあるなど、自治体の事情によって異なります。
希望する自治体の保育士募集情報はこまめにチェックしておくとよいでしょう。
まとめ
公務員保育士は、他の公務員と同じような手厚い福利厚生を受けられ、決められたルールの下で運営されている職場で働けることから、保育士資格を持つ人たちの間で高い人気を誇っています。
ところが待機児童の解消や自治体の運営コストを低減する目的で、公立保育園の民営化を積極的に取り組む自治体もあります。
参考:世田谷区公式サイト「区立保育園民営化(22年度まで)」
採用する自治体側での新規採用ニーズが下がっていたり、せっかく公務員保育士になれても民営化とともに働く場所が縮小していく可能性があったりといったデメリットも、公務員保育士を目指すうえでは考えておいた方がよいでしょう。
公務員保育士を目指しつつ、一方では自分の理想とする保育を実践できそうな民間保育園も探してみてはいかがでしょうか。
公・民といった枠のみにとらわれることなく、保育士の資格を活かして子どもたちにどんなふうに関わっていきたいかという軸で職場選びに臨まれることをおすすめします。
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